令和3年度の取組 | 成果 |
【湖山池の湖内流動の解明】
@湖内及び湖山川の水質の空間分布の把握
A遡上海水の追跡調査
B3次元流況調査 |
以下のとおり、主に「第4期湖山池水質管理計画(計画期間:令和4年度〜13年度)」策定に係る水質シミュレーション(水環境保全課が実施)の精度向上に向けて、湖内流動と塩分流入に関する実測データや知見を得た。
@、A:
○湖山川〜湖山池口〜湖内の水質(塩分濃度等)の空間分布の経時変化から、海水は湖山川を断続的に遡上して湖内に入り、池口から北岸にある最深部に向けて湖底地形に沿って湖底を這うよう流入し(→塩分躍層を形成)、その後上下混合して均一化することが示唆された。
○これを踏まえ、潮位が高く海水が流入しやすい時期(8月上旬〜10月下旬)に池口付近の定点で層別(4層)の塩分濃度を連続測定するとともに、底層部から水面までの流向・流速を連続測定し、以下のことが判った。
・期間中各層とも塩化物イオン濃度で約2,800〜19,000mg/Lの範囲を急激に変化していた。底層ほど塩分濃度が高い傾向であったが、完全混合(底層から表層まで均一)に近い状態も多くみられた。
・大雨のあった期間を除き、順流(湖山池→日本海方向の流れ)と逆流(日本海→湖山池方向の流れ)とがほぼ毎日交互に生じており、これに対応して塩分濃度も大きく変化していた。流向(順流・逆流の別)は、湖山池内(青島付近)と湖山川水門下流付近との水位差に対応していた。
○上記定点断面の流向・流速と4層の塩分濃度の連続測定データを用いて、湖山池塩分(塩化物イオン)の流れの知見を得た。
B:
湖山池池口周辺域の複数地点で、3次元超音波ドップラー流速計を用いて船上から流向・流速を測定し、その分布(水平方向・鉛直方向)から、表層部の湖内流動は風向に、底層部は海水流入に影響を受けやすいことが判った。
⇒上記の得られたデータや知見を、湖山池環境モニタリング委員会等で報告・関係機関で共有して湖山池の塩分濃度管理や水質浄化策に資するとともに、水質シミュレーションの実施者に提供し、精度向上を図った。
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【水環境における生物多様性の保全と再生に関する研究】
@ミナミアカヒレタビラの環境DNAの現場簡易分析方法の検討
Aミナミアカヒレタビラの生息状況の確認と生育個体による環境DNA検出系の確認 |
@、A
○環境DNAの現場簡易分析の前処理方法の改善として、DNA捕集フィルターの目詰まりを低減する工程(孔径20μmのろ紙で予備ろ過して水中の懸濁物を除去)を加えた。
○当所のこれまでの調査でミナミアカヒレタビラの環境DNAが検出されている水域(日野川水系)において、西部総合事務所米子県土整備局が実施した生物調査時に、併せてミナミアカヒレタビラの捕獲調査を実施したところ、生息個体を1匹捕獲できた。
○捕獲した個体のヒレの断片を採取して得た拭い液についてDNAシーケンス解析を行った結果(委託実施)、「鳥取県産のミナミアカヒレタビラ」としてDB登録されたDNAの塩基配列(当所の検出系プライマーの設計に使用)と一致した。また、この拭い液は当所の検出系で反応(DNA増幅・検出)することから、当所の本研究で実施してきた環境DNAモニタリングにおける検出系の妥当性を確認できた。 |
【水銀の迅速分析法に関する研究】
@迅速分析法における試料の前処理法の検討
A昨年度の知見(測定方法での公定法と迅速法との比較)も踏まえた、迅速分析法の評価 | @、A
○溶液試料中の水銀濃度分析について
・廃棄物試料(集じん灰)の溶出液と汚染地下水(県外の実試料)について、「公定法:硫酸・硝酸・過マンガン酸カリウム・ペルオキソ二硫酸塩分解−還元気化原子吸光法」による分析値と、「迅速分析法(無処理−加熱気化原子吸光法)」による分析値とを比較。
・集じん灰の溶出液については、公定法と迅速分析法とで分析値がほぼ同値となって、迅速分析法として適用できる可能性が示唆された。
・汚染地下水については、迅速分析法の方が公定法より分析値が低くなる傾向があり、迅速分析法においても簡易な前処理が必要と考えられた。今後検討する予定。
○固体試料中の水銀濃度(含有量)分析について
・集じん灰とそのセメント固化灰を粉砕・ふるい分けしたものについて、「公定法(硫酸・硝酸・過マンガン酸カリウム分解−還元気化原子吸光法)」による分析値と「迅速分析法(無処理−蛍光X線分析法)」による分析値とを比較。
・公定法と迅速分析法とで分析値は完全には一致せず、迅速分析法の方が公定法より分析値がやや高くなる傾向。
⇒上記の結果から、以下のようにして、「迅速分析法」を廃棄物が「水銀含有廃棄物」に該当するかどうかを判定するための水銀含有量検査のスクリーニング法として使える可能性が示唆された。
◇迅速分析法による分析値<15mg/kgの場合、公定法でも15mg/kg未満と考えられる。
→「水銀含有廃棄物に該当しない」と判定。
◇迅速分析法による分析値>15mg/kgの場合、公定法で確認検査を実施し、「水銀含有廃棄物」に該当するかどうかを確認。
(参考)ばいじん等の水銀含有量>15mg/kg ⇒「水銀含有ばいじん等」に該当 |
【気候変動による水環境への影響調査等事業(地域気候変動適応センター事業)】
@沿岸環境調査
A陸域の調査及び情報収集
B鳥取県気候変動適応センターの運営 |
@、A:
○栽培漁業センターと連携し、陸域から海域への水循環に係る情報を得た。
・水質分析(水の酸素・水素安定同位体比等)を行ったところ、これらの水が夏場の降水と冬場の降水(降雪)との両方が涵養・混合したものであることを示すデータが得られた。
・2010年に得た同様の分析データと比較すると、冬場の降水による寄与の割合が以前よりも小さくなっていることが示唆された。
○陸域の情報収集が人的・時間的制約により計画通りにはできず。
B:
○鳥取県気候変動適応センターを設置し(当所を位置付け)、HPを設けた。他県の気候変動適応センターや国立環境研究所等関連機関との会議に参加するとともに、中国四国広域協議会の活動に参加し、その分科会において(環境省や国立環境研究所等の国の機関、他県の気候変動適応センター、本県・他県の水産部局等とともに)、日本海や瀬戸内海の海洋環境や漁獲魚種等の現状や気候変動の影響に関する観測データ・情報の共有やその方法について検討・協議した(Webによる会議・ヒアリング)。会議が多く、また一方的な流れもあり、咀嚼しきれていない。
○鳥取県気候変動適応センター設置要綱で「所掌事務」とされている以下の事項のうち、1)の一部を除き、遂行できていない。
1)鳥取県内の気候変動影響や気候変動適応に関する情報の収集、整理及び分析
2)事業者、県民等に対する気候変動影響や気候変動適応に関する情報提供
3)県の気候変動適応策を推進するために必要な技術的助言
○以下のとおり取材を受け、本県の取り組み(主に取材を受けた時点での状況や計画)を紹介・発信した。
◇国立環境研究所・気候変動適応センターより、同センターが運営する「A-PLAT(気候変動適応情報プラットフォーム)*」に関する取材依頼を受け、鳥取県気候変動適応センターの取組計画等を紹介(令和3年9月、書面取材)。A-PLATで掲載された。
*A-PLAT(気候変動適応情報プラットフォーム):国立環境研究所気候変動適応センターが運営し、気候変動による影響に「適応」していくために関連情報を一元的に収集・整理をして発信するポータルサイト
◇鳥取県気候変動適応センターの活動等に関する情報収集のため、信州気候変動適応センター(長野県環境保全研究所)の担当者2名が来所され、おおさか気候変動適応センターの1名も参加され(Web参加)、ヒアリング調査を受けるとともに、情報交換した(令和3年12月8日)。
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【県内河川におけるプラスチックごみの汚染実態調査】
@河川敷の散乱ごみ調査
A河川浮遊ごみ調査 | 海洋プラスチックごみが国際的な問題となっており、沿岸部の漂流プラスチックごみや海岸漂着ごみについては調査が実施され、ある程度実態把握が進んでいる。一方で、海洋への排出源である河川のプラスチックごみについては全国的にも十分な調査がなされておらず、県内の実態も把握されていないことから、県内の主要河川におけるプラスチックごみの汚染実態を把握するための調査を行った。
県内の代表河川として、天神川を調査対象として、穴鴨(上流地点)、大原(中流地点)、小田(下流地点)の3地点で以下のとおり調査を実施した。
@:河川敷におけるごみの散乱状況調査
○河川敷の散乱ごみを回収し、プラスチックごみを詳細分類し、由来の推定を行い、以下のことが判った。
・地点により割合の違いはあるが、いずれもプラスチックごみが多くの割合を占めた
・見た目で簡単に判別できたものを暫定集計したところ、生活系と思われるプラスチック
ごみ(食品包装、ビニール袋、生活雑貨など)が多く見られた。
○今後、調査時に回収した未判別のプラごみ(破片など)を見た目やFT-IR(フーリエ変換赤外分光法)による素材分別により、散乱プラごみの由来を推定する予定。
A:河川の浮遊プラスチックごみ調査
○河川にネット(幅約60cm、高さ約40cm、網目:4mm)を約5時間設置し、表層を流れる浮遊ごみを捕集。捕集したごみのうち大きなもの(概ね5mm以上)については、目視によりプラスチックごみを選別・個数を集計し、由来を推測。以下のことが判った
・上流・中流地点に比べ、下流地点で浮遊するプラスチックごみ濃度が高い傾向。
・捕集したプラスチックごみは断片化したものが大半で、河川内に堆積等したプラスチックごみが徐々に劣化し、断片化したものが浮遊している可能性。
・降雨等で水位が上昇したタイミングで、プラスチックごみの多くが流出している可能性が示唆された。
○断片化したプラスチックごみが大半で、見た目からは季節によるプラごみの違いは見いだせなかったため、今後、FT-IRを用いて、素材調査。大まかな由来の推定を実施予定。
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【鳥取県におけるPM2.5発生源の寄与解析 〜隣接県からの移流にも注目して〜】
@CTMs、CMB、PMF等の各解析手法の検討
A解析対象データの整理
・PM2.5成分分析結果の妥当性確認(イオンバランス法等)
・PM2.5重量濃度と無機イオン成分・無機元素成分濃度との比較、相関性確認
B解析条件の検討 |
@
○鳥取県におけるPM2.5の特性と発生源因子の解明を目指し、PM2.5成分分析データを用いて、因子分析統計解析ソフト「Positive Matrix Factorization (PMF)解析」により解析することとした。
○PM2.5の発生源因子(9因子・・・工業粉じん、バイオマス(廃棄物等)燃焼、重油燃焼系、道路交通(排ガス、道路粉じん)、土壌、石炭燃焼系、海塩粒子、硫酸塩(二次生成)、硝酸塩(二次生成))を抽出し、その割合(寄与)の推計を行うこととした。
A、B:
○解析に使用した成分分析データ等の種類・件数等は以下のとおり
◇測定地点(データ取得地点):鳥取県庁西町分庁舎屋上(鳥取市西町)
◇PM2.5成分分析データ(無機イオン成分:8種、無機元素成分:11種、炭素成分:2種)
・4期間(春夏秋冬)/年×14日/期間×1検体(データ)/日→56検体(データ)/年
・2017〜2020年度の4年分のデータ:56データ/年×4年→224データ
・・・このうち、イオンバランス(陽イオン/陰イオンの当量比)、及びPM2.5推計質量濃
度と実測値との比率の両方が0.6以上1.4以下のデータ(96検体)を使用
◇大気常時監視測定データ:PM2.5の実測データ(1時間毎の連続観測)
○各因子については、硫酸塩(二次粒子)、バイオマス(廃棄物等)燃焼が発生源の多くの割合を占めており、次いで硝酸塩の割合が多いことが推計された。
○ランダムなデータ抽出による複数回計算することで、各因子ごとの変動を確認し、工業粉じん、重油系燃焼、道路交通は、バイオマス燃焼、石炭燃焼等の2倍近い変動があることが確認された。
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課題 | 今後の取組 |
【湖沼の水質浄化や環境の保全・再生及び利活用に関する研究の実施】
○県内の主要湖沼の水質改善や自然生態系の保全・再生には、これらに影響を及ぼす要因把握が重要
・R3年度終了の「湖山池の湖内流動の解明」、「水環境における生物多様性の保全と再生に関する研究」で得た知見を踏まえた取り組みが必要。 |
○県内の主要湖沼は汽水湖で、浄化策の一助とするため、海水遡上に伴う湖内の塩分躍層*1)の形成が水質に与える影響に着目し、流動や水質、底質(底泥)のモニタリングによって関係性を明らかにする(湖山池、東郷池)。
*1)塩分躍層:汽水湖等において、ある深度を境に塩分濃度が急激に変化する層
○湖山池湖内での生息が困難となったカラスガイ(鳥取県の特定希少野生動植物指定種)について、湖山池流域で保全するため、保全技術(稚貝生産等)を鳥取大学と共有化し、生育に適する環境を把握する。
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【廃棄物の適正処理やリサイクルに資する研究の実施】
○水銀規制強化を踏まえたモニタリング、廃棄物のリサイクル材の安全性検討や土壌汚染調査等の際に隘路となる重金属分析の改善・迅速化が必要。
・R3年度終了の「水銀の迅速分析法に関する研究」では、廃棄物系の固体試料、液体試料の水銀分析(前処理・測定)の迅速分析法を提示できた。なお、液体試料において前処理を追加する必要な場合がある等、
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○「水銀の迅速分析法に関する研究」で得られた知見や課題を踏まえ、焼却残渣の水銀含有量の変化をモニタリングし、水銀含有廃棄物の分別回収の効果を検証する。
○有害な六価クロムと三価クロムとに区別して現場での迅速測定方法を検討するとともに、測定における妨害の除去方法について検討する。さらに、カドミウム等他の有害重金属の迅速分析法も検討する。 |
【地球環境問題と地域環境への対応に資する研究の実施】
○気候変動による地域環境(水環境・生態系等)への影響が懸念される中、影響に係る知見・情報を得て、気候変動の「緩和」とともに「適応」を考える必要がある。
・鳥取県気候変動適応センターは、「鳥取県地球温暖化防止活動推進センター」と統合の上、指定団体「NPO法人エコパートナーとっとり」で運営されることに決定。
○海洋プラスチックごみ問題への取組・対策が検討されている中で、海洋への排出源である河川のプラスチックごみの県内の実態把握が必要。
○光化学オキシダント、PM2.5等の越境大気汚染による健康影響への関心が高い。
・PM2.5の発生源への関心が高いが知見が無いことを受け、調査研究「鳥取県におけるPM2.5発生源の寄与解析」により知見を得ようとしているところ。 |
○鳥取県気候変動適応センターの運営等については、指定団体及び脱炭素社会推進課へ移管。
○「水環境・生態系への影響等調査」については、当所の調査研究として、R3年度に得られた知見等を踏まえ、気候変動による影響のみならず、陸域→沿岸海域の栄養塩等の流れによる生態系や漁場の形成等にも着目し、栽培漁業センターと連携し実施する。
○排出削減対策に向けた基礎データとするため、R3年度に続き、県内河川のプラスチックゴミによる汚染実態を調査する(R4年度は、地域別にプラスチックの由来等といった詳細な情報も収集し捉える)
○R4年度は、R3年度の知見を基礎に、隣接自治体の分析データを用いて、移流等の影響の解明を目指す。 |