平家物語 宇治川先陣・弓流図屏風
( へいけものがたり うじがわせんじん・ゆみながしずびょうぶ:heike monogatari uzigawa senjin yuminagashizu byobu )
作者の根本幽峨(1824〜1867)は、鳥取城下の商家・砂田屋の長子として生まれたとされ、16歳で江戸に出て鳥取藩絵師・沖一峨の弟子となり、35才で画技を認められて鳥取藩絵師に召し抱えられたのは、若くから旺盛に活動したためだろう。44才で没したにもかかわらず遺された作品には屏風も多く、掛け軸、画帖、巻物などもかなりの数にのぼる。扱う画題は本作のような武者絵を含む日本の歴史人物、中国故事人物、山水が目立つが、当世風俗図、真景図などもこなして幅広く、様式的には狩野派の伝統的な手法である漢画、やまと絵、そして各派を折衷したものまで画題に応じて使い分けて巧みである。
鎌倉時代(13世紀)の成立とされる軍記物語「平家物語」を絵画化したいわゆる「平家絵」は、近世初期以降、屏風をはじめ絵巻、画帖等に展開され数多く制作された。屏風としては、一つに画面全体を合戦場(主に一の谷、屋島、壇ノ浦)とし、合戦にまつわる複数の逸話を埋め込む合戦図屏風とするもの、二つに特定の逸話を各隻に大きく描くものに大別される。本作は後者の例であり、近世の狩野派で選定、継承されてきた逸話とその図像を踏まえている。
本作品は、署名の書体から藩絵師となる前の20代半ばの作品と考えられ、若さゆえの覇気ある筆致と熟達した柔軟な技があいまった丁寧かつ力強い描写、工夫があり洗練された構図、良質な顔料や金箔など画材の活用といった抜群の出来映えから、根本幽峨の代表作とみなせる。藩の御用に応じた作品である可能性が高い。しかも、伝統的平家絵の図像の使用とそこに加えられた工夫がともに認められ、幽峨の狩野派の画家としてのありようと優れた技量が窺えるものとして、また、近世の武者絵屏風、平家物語図屏風の優品としても特筆すべき作品といえる。
文化財の種別 |
有形文化財
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区分 |
指定
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指定種別 |
県指定保護文化財
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分類 |
県指定の絵画
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所在地 |
鳥取市覚寺55 渡辺美術館 |
指定年月日 |
平成30年4月27日 |
所有者等 |
渡辺美術館 |
参考文献 |
田中敏雄『根本幽峨の伝記と画業』渡辺美術館、2007年
『鳥取県の自然と歴史5 藩政時代の絵師たち(改訂版)』鳥取県立博物館、2013年
山下真由美「武家の父子の姿に託された"忠"と"孝"―幕末の鳥取藩絵師・根本幽峨の作品にみる水戸学の光と影」『美術フォーラム21』33、2016年 |
参考リンク |
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