絹本著色琴棋書画図
( けんぽんちゃくしょくきんきしょがず:kenponchakushoku kinkishogazu )
近世後期の鳥取藩を代表する絵師根本幽峨(1824〜1866)の手がけた大型の三幅対である。中幅に琴と囲碁、右幅に書芸、左幅に茶を喫しつつ絵画鑑賞をする士大夫らを描く。細く張りつめた緊張感のある描線、人物の服装から調度、画中画といった景観描写に至るまで隅々までの入念な描きこみ、上質の顔料を用いた鮮やかな色彩と、緻密で豊かなグラデーションや陰影表現など、幽峨の現存作例の中でも出色の出来栄えを誇る。
幽峨は鳥取城下の商家に生まれ、江戸に出て藩絵師の沖一峨(1796〜1855/61)に入門、狩野派をはじめとする様々な流派を旺盛に学び、極めて高い技術と洗練された画風を築いた。
教養人の嗜みとされた四種の技芸を描く本作にも本歌となる作品がある。東京国立博物館所蔵の「琴棋書画図」がそれで、元時代の宮廷画人任仁発の作という伝承を持つ(実際は明時代前期の作)。
幽峨は背景の樹石や群像の図様、さらに細部の道具立て、衣文線の配置や顔つき、モチーフの文様や色味など全面的にこの古画に依拠しつつ、四幅対を三幅対へと再構成すべく第一幅(春・琴)と第二幅(夏・棋)の図様を合わせて中幅としたうえ、第三幅(秋・書)を右幅、第四幅(冬・画)を左幅へと組み替えを行っている。また、群像や道具立ての配列にはいくつもの加除や入れ替えがなされており、例えば中幅、琴をひく士大夫の背後の衝立の絵を中国風の山水図からめでたげな旭日松鶴図に変更する、右幅の丸椅子を無文の毛皮張りから虎皮張りにするといった微修正が全面的に加えられている。そのほか、幽峨は人物のしぐさや導線、遠近感の整理を行い、明快な構図を工夫している。さらに原画のもつ古色を帯びてくすんだ色彩は、仇英様式などを志向する明清風の明るく鮮烈な色彩感覚や西洋風の陰影に置きかえており、幽峨の中国絵画学習の別の一面も示している。
大正期の売立目録に「荒尾家旧蔵」とあることから、鳥取藩で家老職なども務めた荒尾家が所蔵していたことが推定される。制作優秀で規模が大きいうえに、中国絵画学習という近世後期の絵画制作の潮流を幽峨が高い水準で体現したことを示す本作は、幽峨の画業のみならず、近世鳥取画壇の豊熟を象徴する記念碑的作品と評価できる。
文化財の種別 |
有形文化財
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区分 |
指定
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指定種別 |
県指定保護文化財
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分類 |
県指定の絵画
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所在地 |
鳥取市鳥取市東町2丁目124 |
指定年月日 |
令和6年1月19日 |
所有者等 |
鳥取県立博物館 |
参考文献 |
『生誕二〇〇年 根本幽峨 近世鳥取画壇の「黄金時代」最後の華』、鳥取県立博物館、2024年。 |
参考リンク |
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問合せ先 |
鳥取県立博物館 |
備考 |
本作は、鳥取市(旧鹿野町)の収集家安富寛兵衛氏(1887〜1980)のご遺族から県立博物館に寄贈されたものです。 |
アクセス方法 |
100円バス「くる梨」緑コース「11仁風閣・県立博物館」下車すぐ
ループ麒麟獅子「3鳥取城跡」下車すぐ
砂丘・湖山・賀露方面行「西町」下車約400m
市内回り岩倉・中河原方向行「わらべ館前」下車約600m |
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公開状況 |
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