手漉和紙〔保持者:長谷川 憲人〕
( てすきわし〔ほじしゃ:はせがわ のりと〕:tesukiwashi hojisya hasegawa norito )
手漉和紙は、わが国独特の「流漉(ながしずき)」という技法で紙を製造する技術である。楮(こうぞ)、三椏(みつまた)、雁皮(がんぴ)などから、手作業で生繊維を精製した紙料を用い、伝統的な用具を使って、一枚一枚紙を漉く。
鳥取県では、近世以来和紙製造が盛んで、昭和51年には 「因州青谷こうぞ紙」及び「因州佐治みつまた紙」が県の無形文化財に指定されている。
保持者の長谷川憲人氏は全国的に名の知られた和紙産地である鳥取市青谷町山根で手漉和紙を作り続けてきた工房の三代目である。手漉和紙職人であった二代目の父・国義氏のもとで1980年から手漉和紙を始めた。楮紙を主として、三椏紙、雁皮紙等を漉く。それぞれの素材を吟味し、性質を活かし、和紙の持つ美しさや強さ、風合いを探求しながら、さまざまな使い手の感性を刺激するような和紙をめざしている。同氏が漉いた紙は、他の紙にはない腰の強さ、しなやかな張りが魅力とされ、書道や版画、和傘など国内外でさまざまな用途に使用されている。
県指定無形文化財「染織」及び「紙布」の保持者である染織家の山下健氏は、長谷川氏抄造の楮紙から紙糸(かみいと)を縒(よ)って紙布(しふ)を織り上げている。
また、鳥取県立博物館は平成12年から鳥取藩政資料の補修用紙に同氏抄造の楮紙を使用してきたが、近年は宝暦5年(1755)から同藩が御用紙とした「黄紙(きがみ)」の修復のため、楮紙をキハダ染めした修復紙の試作を長谷川氏に依頼している。
このように長谷川氏は、自らが漉く紙の美的価値と改善点を知るために積極的に作家等と交流を図り、その知見を蓄えながら手漉和紙のあるべき姿や理想を追求している。
また、国内外で和紙制作の実演、指導、作品の展示を行い、手漉和紙の普及に尽力してきた。
著名な和紙産地の一つである鳥取市青谷町でも、いまや手漉和紙の漉き手は3軒にまで減少した。このような現状にあって、長谷川氏は県指定無形文化財「因州青谷こうぞ紙」の保持団体に認定された「因州青谷こうぞ紙手すき和紙保存会」の会長を務めて、機械漉の職人や和紙製作用具等の生産者も包含した活動を展開し、和紙づくりの伝統を保存・継承するために腐心し尽力してきた。また後継者の育成についても、実子の長谷川豊(ゆたか)氏への手技等の継承をはじめ、広く手漉き以外の職人や佐治の研修生も対象に、良い和紙を漉くということへの信念を伝えながら知識と経験の教授を懇切に行っている。
以上により、本県指定の無形文化財「手漉和紙」の保持者と認めるに相応しいと評価する。
1981 (株)鈴木和紙から依頼を受け、ロサンゼルス・ディズニーランドで開催された「Japanフェスティバル」に参加し、紙漉き実演を行う
2001 経済産業省大臣指定伝統工芸品(因州和紙)を製造する伝統工芸士(総合部門)に認定される
2004 バルセロナ・リョッチャ美術学校、カペリャーダス紙博物館で初代あおや和紙工房館長の若木剛氏らと紙漉き実演や講演を行う
東京・世田谷 梅ヶ丘アートセンターで展示会「因州和紙に生きる」を開催する
2010 バルセロナ・版画交流展10周年に際し招待を受け、西村信吾氏らとリョッチャ美術学校、バルセロナ大学、カペリャーダス紙博物館等で講演、和紙制作指導を行う
2016 鳥取県立博物館企画展シリーズ鳥取の表現者File.07「コウゲイノモリへ−探求する工芸家たち」に参加、作品等を展示する
2018 日本橋・小津和紙で『因州和紙 伝統工芸二人展 中原剛・長谷川憲人』を開催する
2019 河北省の河北博物院「因州和紙展」で鳥取県立博物館長らと参加しワークショップを開催する
2020 インスティトゥト・セルバンテス東京で「スペイン×因州 因州和紙による現代版画交流20周年記念展」を開催する
文化財の種別 |
無形文化財
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区分 |
指定
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指定種別 |
県指定無形文化財
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分類 |
県指定の工芸技術
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所在地 |
鳥取市青谷町鳥取市青谷町 |
指定年月日 |
令和6年4月16日 |
所有者等 |
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参考文献 |
壽岳文章 1944 『日本の紙』 靖文社
若木剛 2006 『因州青谷の和紙ガイド あおや和紙工房へ ようこそようこそ』
尾鍋史彦編 2006 『紙の文化事典』 朝倉書店
三浦努編 2016 『コウゲイノモリヘ−探求する工芸家たち』 鳥取県立博物館 |
参考リンク |
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