| 被害内容等 | 愛知・福井・埼玉、各方面で最もその猖獗(しょうけつ)を極めつつある世界的風邪というのは、1915、1916年頃に英国で最も猛威を揮った疾患で、スイスで発行しているヴンドという雑誌にはグリツプとなっている。いわゆる世界的インフルエンザというべきである。本年4、5月頃は我国でも相撲風【原文ママ】などと称して各地方に蔓延し、また、中国南洋方面に流行し、天津だけで数万の死亡者を出したくらいである。9月に入手した外国雑誌によると、スペインの首都マドリツドでは、この風邪のために20万の罹病者を出し、漸次(ぜんじ)各地に及び、更にオランダから南アフリカに伝染した。殊に南アフリカ連邦ケープタウン半島サイモンスホルト及びダーヴアン地方では患者無数とされていることから、この疾病がいかに猛烈であるかを想像することができる。伝染の経路についてはフイフエル博士が、インフルエンザは桿(かん)菌で伝染すると言ったのであるが、最近では博士発見の桿菌によらずに流行するインフルエンザもあることが発見されたのである。元来、グリツプという言葉は、インフルエンザを意味する仏人の語であるが故に、各国によって流行性風邪の名が異なっている。ロシア人はこれを支那風邪、ドイツ人はロシア風邪、イタリア人はドイツ風邪、フランス人はスペイン風邪もしくはイタリア風邪といい、各々その名称は異なっているが、いずれもインフルエンザの事である。最近ではインド・南洋・中国南部から我国に及び、英領カナダ・西部アメリカサンフランシスコー・ヴイクトリア、バンクーバア方面にも流行している。いずれも我国の流行性風邪と期を同じくして流行しているところを見れば、必ずしも外国から伝播したものと断定することは出来ない。故に特殊な伝染病とすれば、この際海港検疫を断行して、その防遏(ぼうあつ)を期さなければならないが、今のところそんなものと見ることができない。しかし、患者の咳・くしゃみ等から、泡と共に黴菌(ばいきん)を移植させるから、患者自身はハンケチをもって口を掩い、他人に迷惑をかけぬようにするのが、公衆衛生上最も大切なことである。 |