| 被害内容等 | 流行性感冒につき、北里研究所博士は、「今年の春頃にスペインで発生以来、わずか半年間のうちに全世界に蔓延したことは、古今未曾有のことである。1892年に欧洲全土に流行したこともあるが、それと比べても、いかに交通機関が整備されたとはいえ、今回の流行は実に珍しいことと言わねばならない。我が国でも明治22年にロシア方面から入ってきて、23年から25年まで継続し、多数の死亡者を出したこともあったが、それに次ぐ流行である。研究所でも研究に従事しつつあるが、なかなか単純な方法で撲滅できるものではないので、各自が警戒予防の方法を講ずるしかない。インフルエンザ菌は日光に弱いので、1週間も天気が続けば大抵下火になると思うが、差し当たり夜具・蒲団を日光に晒し、湿潤を去り、もし罹病者があれば食器を消毒し、あるいは別にして、未罹病者は罹病者に近づかない様にするのが良い。また、肺炎を併発しやすいからここに第一に注意すべきで、発熱したり痰が出たり頭痛がしたりした場合は絶対に外出を禁じ、床に入って暖かくし、初期において癒す様にする。煙草や酒を飲む人や肥満性の人、脚気(かっけ)の人は心臓を冒されやすいので大いに警戒する必要がある。研究所でも、結核患者や腸チブス患者には、今回の流行性感冒は毒を飲ませる様なものなので、1週間以前に自宅療養可能な者は全員帰宅させ、その浸入を鋭意防止している」。 |