概略説明
平成10年以降の中国産白ねぎの輸入増加により、国内産白ネギの販売価格が低迷していたが、中国産食品の農薬混入問題等により中国産食品への不信感が高くなり、中国産白ネギの輸入量が減少し、国内産価格は回復傾向となっている。しかし、依然として高値は望めない状況である。また、新たに肥料原料価格の国際的高騰により肥料等の農業用資材価格が高騰していることから農業経営は一層厳しい状態であり、白ネギ経営の安定化、産地の維持・発展を図る上で、一層の低コスト化、安定多収化は重要である。
栽培面においては、近年の地球温暖化に伴う夏期の高温・干ばつ、暖冬の影響により収量の低下、病害虫被害などが増加している。地球温暖化に対応した安定生産技術の確立が強く求められており、各項目に沿った技術開発に取り組む。
1 試験の必要性
(1) 9月〜11月どり作型において、夏期の高温・干ばつにより圃
場内で白ネギが腐敗し、収量が著しく減少している。安定生 産に向けた夏越し栽培技術の確立が求められている。
(2) 肥料の高騰に対応した低コスト施肥栽培技術の確立が強く
求められている。
(3) 1本ネギの周年化が進められる中、夏期の高温・乾燥の影
響により6月まき春どり作型の育苗が不安定となっている。ま
た、初夏どり(5月末〜7月)栽培では 暖冬による抽苔の増加
が課題となっており、春ネギの夏越し育苗技術、夏ネギの抽
苔(ねぎ坊主の発生)抑制技術の確立が強く求められてい
る。
(4) 暖冬および夏期の高温乾燥の影響により白ネギの葉の表
面を食害する害虫および晩秋から初夏にかけて白ネギの葉鞘
部(白い部分)が褐変腐敗する病害が増加しており、防除体
系の確立が強く求められている。
2 試験の内容
(1)夏越し栽培技術の確立
・高温期の生育推移、夏期の灌水が生育に及ぼす影響
・耐暑性品種の検索、土壌伝染性病害に対応した薬剤防除
・夏越し栽培技術の総合組み立て
(2)低コスト施肥技術の確立
・堆肥の有効利用と施肥量の検討(中小家畜試験場との連携)
(3)周年出荷体系の強化
・6月まき春どりネギの夏越し育苗技術の確立
・5月中下旬どり1本ねぎの抽苔(ねぎ坊主の発生)抑制技術の
総合組み立て
・作期別適品種の検索
(4)病害虫防除体系の確立
A アザミウマ類防除体系の確立
・薬剤感受性の検定
・天敵利用の検討
・防除体系の確立
B 小菌核腐敗病防除体系の確立
・防除時期、散布方法の検討
3 試験の効果
(1)夏越し栽培技術の確立
夏期の白ネギの適性な管理を実現。
腐敗量の減少 → 安定多収 → 白ネギ経営の安定化
(2)低コスト施肥技術の確立
生産コストの低下→白ネギ経営の安定化
(3)周年出荷体系の強化
3月〜7月どり作型の安定化→周年出荷体系の安定化
(4)病害虫防除体系の確立
病害虫による被害が減少。
出荷数量の増加・秀品率の向上→白ネギ経営の安定化
4 これまでの成果
(1) 夏越し栽培技術の確立に関する知見
・夏期の積極的な灌水はねぎの生育を促進し、高温期の生育
停滞対策に有効であることを認めた(灌水・施肥量と腐敗と
の関係は検討中)。
(2) 周年出荷体系の強化に関する知見
・晩抽系新品種(ねぎ坊主の発生が遅い品種)の特性を明ら
かにし、春どり(3月〜6月)作型・初夏どり(5月末〜7月どり)
作型に適した品種を選定した。
・5月中下旬どり一本ねぎについて保温性の異なる被覆資材
の種類および花芽分化期の灌水と施肥が、ねぎ坊主の発生
に影響を与えることを明らかにし、これら個別成果を組合
せ、技術組み立てを行っている。
・11〜2月の秋冬どりにおいて、葉折れが少なく、良品質で安
定多収の有望品種’関羽一本太’を選定した。
(3) 病害虫防除体系の確立に関する知見
・ネギアザミウマについて、従来の雌型(雌しか生まれず、交
尾をしなくても産卵し、増殖するタイプ)のほかに、雄型(雌と
雄が共存し、交尾・産卵し、増殖するタイプ)が発生している
ことが明らかになった。
・一部の農薬について、ネギアザミウマに対する殺虫効果の
低下が認められた。
5 年次別試験内容と事業費