1 概要
緊急円高・デフレ調査結果から、素形材の産業界において、先行き不安が増大しているとの現場の声から、経済・雇用振興キャビネットを緊急開催し、以下のとおり施策を構築した。
2 事業内容
新興国が生産拠点からマーケットに変貌する中で、日本メーカーの調達戦略の変化や電気自動車(EV)への取り組みによる部品点数の減少など事業環境の変化に対応するため、新技術の開発による部品供給体制の構築に取り組む。
新素材・代替資源に着目した技術開発への支援
新興国が求める日本でしかできない付加価値の高い技術への研究開発を促進するため、成長分野を意識し、新素材の成形のために必要な研究要素(軽量化・耐久性・耐食性)の向上を図る。
〔補助事業の概要〕
新規性が高く、中長期的な成長分野を見据えた新素材等の成形に向けた技術開発計画を公募し、新規性の極めて高い計画に対して、補助事業で支援。
【対象企業】県内中小企業
【対象業種】素形材産業(鋳造、鍛造、金型、金属プレス、熱処理等)
【素材対象】チタン、モリブデン、マグネシウム、カーボン、タングステン等
【対象事業】(1)基礎研究、(2)応用研究、(3)実証研究
【補助金】上限20,000千円×5件(企業)・・・最長平成25年3月末まで
【補助率】2/3以内(※リスク・新規性が高いため)
【外部審査関係経費】492千円(審査及び事業評価)
〔審査基準〕
@著しい新規性 A開発目標・課題の明確化
B開発の科学的根拠 C用途の可能性(※1、※2)
※1 事業化状況報告を義務付けて、計画を認定する。
※2 その後、以下のフォローアップ体制へ引き継ぎ、支援を継続する。
予算額;100,492千円 (100,000千円+492千円)
〔補助事業実施後のフォローアップ体制〕
⇒以下(1)(2)(3)の各主体は、積極的に補助事業実施者と連携して事業化を推進していく。
(1)事業化に向けた支援(主体:産業技術センター)
(2)経営革新計画策定の支援(主体:商工団体)
(3)見本市など販路開拓の支援(主体:産業振興機構)
3 現状
【素形材産業を取り巻く事業環境】
〔急激な生産水準の低下〕
・リーマンショックにより、50%〜60%まで減少。※過去の不況では、マイナス幅は、約20%程度
・現在でも、過去の景気後退期と同程度の生産レベル
〔新興国市場の変化〕
・新興国は、生産拠点・輸出先からマーケットに変貌
・日本メーカーの調達戦略の変化等により、部品調達は新興国にシフト
〔電気自動車への注目の高まり〕
・従来車と比べ、電気自動車では部品点数が大幅に減少。(約3万点⇒1万点)
・自動車のモジュール化が進展し、強みである垂直統合モデルが崩壊する可能性あり
〔地球温暖化問題への対応〕
・地球温暖化問題への対応の中で検討されている再生可能エネルギーの全量買取制度や地球温暖化対策税が導入された場合、多大な負担増
4 課題
(1)新興国需要の取込と国際競争力拡大を踏まえた事業者の競争力確保
(2)人材・資金面において、単独では競争力確保に必要な設備投資、研究開発等の余力が不十分
(3)中小企業における省エネ対策の遅れ
(4)事業発展に欠かせないユーザーへの提案力・営業力
5 現場の声
キャビネット委員等の声
〔現状〕
・円高によるメーカーの海外移転加速による受注減が心配。素形材産業は、物流コスト面で他産業より高いので、新興国等への輸出は難しい。(全委員)
・80円台の円高継続では、輸出している分野も海外で生産するしか対応できない。(金型企業)
〔競争力強化への検討〕
・新興国ではできない新素材、鉄の代替材料などへのチャレンジしか、国内生産の生き残る道はない。(全委員)
・水ビジネス、原子力、医療用機器、航空機、ロボットなどが素形材産業としての成長分野であり、それに向けては、軽量化、耐久性、耐食性に対する新素材のイノベーションが重要。(全委員)
・国が実施している研究開発支援(サポイン)は、事業化研究でビジネス化の見通しが見込めるものが対象。その前段階である基礎研究、応用研究など技術力アップのための研究支援スキームが必要。(全委員)
・基礎研究、応用研究、実証実験に到るまで、人件費込みで、3千万が目安。新素材の研究開発は、中長期的視点であり、ハイリスクであるため、新規性の高い研究開発計画を推し進める上で、委託研究として実施すべき。(全委員)
・新規性の高い研究開発における採択審査会は、外部委員を入れると技術情報が漏れるため、行政内部で行うべき。(全委員)
〔その他の要望〕
・鳥取県がものづくりで戦うには、研究開発に対する投資が行政として必要。(全委員)
・ものづくりの中核である素形材産業は、危機的状況であり、崩壊すれば、鳥取県にハイテク産業も立地する必然性がなくなり、産業を形成できなくなる。(全委員)
・県内企業の一部では、リーダー格の技術者が突然いなくなり、中国等で働いている。技術の流出防止策を講じるべき。(鋳造、金型企業) ⇒ 国要望検討
・素形材産業は、光熱費等のコストが高く、地球温暖化対策税の導入や再生可能エネルギー全量買取価格制度導入に反対。成長へのシナリオなきCO2削減計画はやめるべき。(全委員)
⇒ 国要望検討
6 今後の展望
〔自動車産業の戦略に歩調を合わせた対応が基本〕
素形材産業の最大ユーザーが自動車産業であり、欧米を中心にEV等が普及、一方、新興国では、低価格な内燃機関自動車が伸びていく。
(1)エネルギーの有効利用の観点から軽量化・省エネ化が必要
(2)次世代自動車に必要な部品(モーター、バッテリー関係)への研究開発が必要
〔新たな成長分野への展開〕
リーマンショックの経験から、自動車等の特定産業に過度に依存せず、リスクヘッジとして、成長分野への取り組みなどバランスのとれた事業構造に変革する必要がある。
(1)環境・エネルギー(原子力発電部材、省エネルギー設備等)
(2)医療・福祉(生体材料、医療機器、生活支援ロボット等)