1 事業概要・目的
豊富で良好な水質とされる鳥取県内の地下水・湧水について、水質を把握・評価するとともに、水循環と水質の形成過程に着目し、その年齢や涵養域、水質と周辺の自然環境(土壌・地質、植生)との関係に関する知見を得て情報提供して県民の意識を高め、鳥取県内の地下水・湧水や周辺の自然環境の保全と、持続可能で賢明な利用に繋げる。
2 内容
(1)水質調査・評価
県内の地下水・湧水等の水質を調査し、既存の水質指標やおいしさ指標、用途別指標等で解析・評価した結果(H22年度実施)を踏まえ、必要に応じて以下の追加調査を行う。
○地点追加:調査漏れ地点等の調査
○項目追加:環境基準が定められている有害物質等の調査
(2)代表的な湧水の年代推定(詳細)
国や県の名水等県内の代表的な地下水・湧水の年代(年齢)を推定して示し、「長い年月を経て得られる大切な資源」として、認識されるようにする。
H22年度のトリチウム分析で判明する湧水の年代の概要*と、置かれている環境を踏まえ、最適なトレーサー物質を選定して湧水中の濃度を分析し、詳細な年代(1年刻み)を推定する。
*:0〜30年、30〜50年、50年以上というレベルで判明。
◆湧水中のクロロフルオロカーボン(フロン類)、及び六フッ化硫黄の濃度分析によって年代測定(詳細)を行うこととし、当該測定を専門機関に外部委託。
(3)自然環境(土壌・地質、植生)と水質との関係の把握
降水等が植生に接触して流下し、地中を浸透する過程や存在環境によって地下水・湧水の水質が形成されることに着目し、大山周辺地域の代表的な湧水の涵養域*〜湧出域間の自然環境(土壌・地質、植生)を把握し、水質との関連性等を捉えて示し、周辺の自然環境(特に涵養域)の保全に繋げる。
H23年度は以下のことを行う。
○涵養域〜湧出域間の土壌調査(理化学性)
○ 〃 植生調査(樹種・割合、樹齢)
○ 〃 地質(構成主要鉱物種等)、水文環境の把握
*:涵養域の推定はH22年度実施。
3 要求額内訳(H23年度)
4 実施計画
年度 | 実施内容 | 予算額
(千円) |
H22 | ◆地下水・湧水の水質調査・評価、マッピング
◆代表的湧水の年代推定(概要)
…トリチウム分析(外部委託)
◆代表的湧水の涵養域推定(大山)
…水質分析、酸素・水素同位体分析(外部委託)
◆土壌・地質、植生と水質との関係把握(涵養域を推定した湧水について)
…既存資料収集等 | 2,626 |
H23 | ◆地下水・湧水水質調査(補足調査)
◆代表的湧水の年代推定(詳細)
…湧水中のフロン類、六フッ化硫黄濃度分析(外部委託)
◆土壌・地質、植生と水質との関係把握(大山、涵養域を推定した湧水について)
…涵養域〜湧出域間の土壌調査、植生調査、地質、水文環境の把握 | 1,853 |
H24 | ◆土壌・地質、植生と水質との関係把握(大山、涵養域を推定した湧水について)
…涵養域の土壌浸透水、渓流水・湧水、樹幹流の水質調査、土壌・鉱物からの溶解実験 | 1,500 |
5 必要性・背景
○鳥取県は緑豊かな自然に恵まれ、“名水”と呼ばれる良好な水環境が多く存在し、昔から人々に親しまれ大切に引き継がれている。その多くが地下水・湧水で、特に大山周辺地域に集中。
○大山南西麓地域に地下水利用を目的とした企業の進出が相次いだことを契機に、県内の地下水・湧水への関心が高まった。
○これを受け、H19〜21年度に「持続可能な地下水利用検討事業(水・大気環境課)」で、鳥取大学の関連分野の専門家とともに、大山南西麓と鳥取平野を対象に、地下水の量や収支等を把握するための共同研究を実施。
○共同研究の結果を基に、対象地域内での地下水利用の規制等の必要性やあり方が検討される計画であるが、水量や収支等が検討材料。水質やその形成過程や周辺の自然環境は考慮されない。
○地下水・湧水の良好な水質は周辺の自然環境によって形成されると考えられ、もっと目を向けられるべきであるが、水質形成や水循環、周辺の自然環境との関係について不明。
6 成果の活用方法・効果
◆この研究で得られる知見を広く情報提供し、規制等の制度とは別のステージから、人の感覚に訴えながら、地下水・湧水の保全や賢明な利用を図るとともに、周辺(特に涵養域)の自然環境保全に繋げる。
○県内の地下水・湧水の水質や年代に関する知見
→ 「身近な地下水・湧水が良好な水質で、長い時間をかけて形成されたものであること等を示して県民の意識を高め、県内の地下水・湧水の保全や賢明な利用に繋げる。
○地下水・湧水の涵養域や、周辺の自然環境が地下水・湧水を涵養して水質を育む過程についての科学的知見
→ 県内の自然環境(森林、土壌・地質等)も「資源」として捉える意識や関心を高め、自然環境保全に繋げる。
◆ 「持続可能な地下水利用検討事業」での検討の結果、条例による規制が必要となった場合でも、県民の理解が得やすくなる。
これまでの取組と成果
これまでの取組状況
@地下水・湧水等の水質測定・評価
県内の国や県の名水に指定された湧水等9箇所の水質調査を実施。水質基本指標やおいしさ指標等各種指標で評価。
・アルカリ土類炭酸塩型のものが多い(9箇所中6箇所)。
・これら湧水を既存の「おいしさ指標(カルシウム、カリウム、ケイ素等 の濃度で表す)」で評価したところ、全て「おいしい水」となった。
・水温は9〜18℃台と幅広いが、多くが13℃台以下であった。
A地下水・湧水の年代・涵養域の推定
・@の湧水の年代測定(概要)のためのトリチウム分析を実施中
・大山周辺の代表的な湧水5箇所の涵養域推定のため、対象とする 湧水や起源となり得る上流域の渓流水・湧水の酸素・水素安定同位 体分析を実施中。
B涵養域〜湧出域の自然環境(土壌・地質、植生)と水質の関係把握
・大山周辺の植生や土壌・地質についての資料や情報を収集中。
これまでの取組に対する評価
現在、手始めとして、国・県の名水指定の湧水について、地下水・湧水に対する県民の関心を高めて保全や賢明な利用に繋がる知見(水質、年代、涵養域等)が得られつつあるところ。