1 背景
平成22年以降の急激な円高により、最も悪影響を受けている素形材産業に対して、平成22年度に経済・雇用振興キャビネットを設置し、新素材等の成形など技術開発支援施策を構築。
しかしながら、技術開発のハードルが高いことや、国内市場の縮小などによる受注環境の悪化など課題が山積していることから、再度今年度に経済・雇用振興キャビネットを設置して、以下のとおりものづくり基盤産業支援(素形材産業の再生に向けた支援スキーム)を総合的に検討。
※素形材産業・・・・素材に形を与えること(成形)を「素形材」と呼び、川上(素材メーカー)と川下(最終製品組立メーカー)の川中に位置する鋳造、鍛造、金型など「ものづくり基盤産業」の業種・業態を指す。
2 事業概要
新興国市場の拡大に伴う国内メーカーの海外市場近接地での調達戦略や、自動車産業のEV化の進展など、事業環境が悪化する中、県内のものづくり基盤産業である素形材産業の高度化を図り、新素材の成形など新技術の確立と、海外需要の取り込みを目指す。
<事業内容一覧>
区分 | 支援メニュー | 予算額 |
1 新素材・高度部材の成形技術の確立【拡充】 | (1)サポインコンソーシアムの創設
(2)新素材・代替資源に着目した技術開発への支援(補助事業) | |
2 グローバル展開支援【新規】 | (1)海外調査支援(補助事業)
(2)グローバル人材育成支援(補助事業) | ※素形材産業高度化支援事業費補助金で対応 |
3 製造中核人材の育成支援【新規】 | (1)生産技術等の人材育成(委託事業)
(2)マネジメント人材の育成 | |
計 | | 115,979千円 |
1 新素材・高度部材の成形技術の確立【拡充】
新素材等の探求に資する研究会を創設し、研究シーズ探求から研究開発までの支援を、一貫したスキームとして構築。
(1)新素材・高度部材のサポインコンソーシアムの創設【新規】 予算額:4,187千円
新素材ごとの特性や性質等、及び日本国内での技術水準や動向、今後の研究等を的確に課題整理するための研究会を設置。
〔サポインコンソーシアムの概要〕
想定する研究会 | ・スーパーハイテン研究会
・マグネシウム研究会
・アルミニウム研究会
・チタン研究会
・二相ステンレス研究会 など |
講師と役割 | ・大学 → 学術指導(物理学、化学等)
・産総研 → 技術指導(日本国内の技術水準や動向等) |
テーマ | 材料特性・性質、成形技術、切削技術 など |
〔要求内容〕
講師謝金 1,473千円
講師旅費 2,714千円
(2)新素材・代替資源に着目した技術開発への支援
(素形材産業高度化支援事業費補助金)【継続】
予算額:100,581千円(77,246千円)
日本でしかできない付加価値の高い技術への研究開発を促進するため、成長分野(水ビジネス、原子力、医療用機器、航空機、ロボット)を意識し、新素材等の成形のために必要な研究要素(軽量化・耐久性・耐食性)の向上を図る。
〔補助事業の概要〕
【対象企業】 県内中小企業
【対象業種】 素形材産業
【素材対象】 スーパーハイテン、マグネシウム、アルミニウム、チタン、二相ステンレス など
【対象事業】 (1)基礎研究、(2)応用研究、(3)実証研究
【補助金】 上限20,000千円×5件程度(企業)=100,000千円
⇒ 最長平成27年3月末まで(債務負担行為)
【補助率】 2/3以内(※リスク・新規性が高いため)
【外部審査関係経費】 581千円(審査及び事業評価)
2 グローバル展開支援(国際分業体制の構築等)【新規】
国内メーカーの新興国での現地調達化(市場近接型調達戦略)が進展する中で、成長著しい海外需要を取り込むため、県内素形材産業の国際分業体制の構築を目指すための海外調査やグローバル人材育成を支援。
(1)海外調査支援【新規】
※素形材産業高度化支援事業費補助金で対応
海外展開に必要不可欠な現地パートナー企業の発掘等を支援するため、現地の企業情報、立地環境、商習慣などの情報収集に必要な経費の一部を助成。
【補助金】上限1,000千円
【補助率】2/3以内
(2)グローバル人材育成支援【新規】
※素形材産業高度化支援事業費補助金で対応
上記の支援に加え、現地で活動していく上で必要なビジネススキルやコミュニケーション能力等を身に付けるために必要なインターンシップ等の経費の一部を助成。
【補助金】上限2,000千円
【補助率】2/3以内
※素形材産業高度化支援事業費補助金の枠組み
(これまで)
経費区分 | 補助率 | 補助金上限 |
技術開発 | 2/3以内 | 20,000千円 |
↓
(今後)
事業区分 | 経費区分内の補助上限 | 補助率 | 補助金上限 |
技術開発事業 | なし | 2/3以内 | 20,000千円 |
海外調査事業 | 1,000千円 |
グローバル人材育成事業 | 2,000千円 |
3 製造中核人材の育成支援【新規】
団塊世代の退職による生産技術力低下への対応や、受注受身型企業から提案型企業への転換のために必要なマネジメント人材育成への対応を支援。
(1)生産技術等の人材育成【新規】 予算額:5,341千円
※高等技術専門校が実施
生産技術力向上のために、事業者のニーズに基づき、オーダーメイドで専門家を派遣。
【想定テーマ】
(鍛造企業)チタン合金の冷間鍛造における基礎的論理
(鋳造企業)耐食鋼鋳鋼の材質特性、製造技術
(金属プレス企業)サーボプレスを使った成形精度向上事例
(金型企業)自動車用ハイテン材料の適用技術
(熱処理企業)熱処理による変形低減の技術
〔要求内容〕
委託費 5,341千円
(2)マネジメント人材育成【新規】 予算額:5,870千円
※高等技術専門校が実施
高いマネジメント能力を有する幹部候補生育成を目的とし、セミナーを開催。
【想定テーマ】 収益確保と原価企画の重要性
財務分析と早期分析法
生産計画と生産統制の手順
ヒューマンエラーとその対策
〔要求内容〕
講師謝金 5,544千円
講師旅費 326千円
3 現状
【素形材産業を取り巻く事業環境】
〔急激な生産水準の低下〕
・リーマンショックにより、50%〜60%まで減少。※過去の不況では、マイナス幅は、約20%程度
・現在でも、過去の景気後退期と同程度の生産レベル
〔新興国市場の変化〕
・新興国市場における国内メーカーの市場近接型調達戦略への変化
・新興国市場での中位所得層の増加
〔電気自動車への注目の高まり〕
・従来車と比べ、電気自動車では部品点数が大幅に減少。(約3万点⇒1万点)
・自動車のモジュール化が進展し、強みである垂直統合モデルが崩壊する可能性あり
〔地球温暖化問題への対応〕
・地球温暖化問題への対応の中で検討されている再生可能エネルギーの全量買取制度の強化や地球温暖化対策税が導入された場合、多大な負担増
4 課題
(1)新興国需要の取込と国際競争力拡大を踏まえた事業者の競争力確保
(2)人材・資金面において、単独では競争力確保に必要な設備投資、研究開発等の余力が不十分
(3)中小企業における省エネ対策の遅れ
(4)事業発展に欠かせないユーザーへの提案力・営業力
5 現場の声
キャビネット委員等の声
〔現状〕
・円高の影響により、電気機械関連、情報通信機械関連等の関係は、受注先がほとんど海外にシフトしており、国内では戦えない。(鍛造、鋳造、金型、金属プレス企業)
・国内での需要が縮小しており、海外進出により受注を獲得する必要性を強く感じている。(金型企業)
〔競争力強化への検討〕
・チタン、コバルト、マグネシウム等、新たな素材の成形技術を確立し、競争力強化を図りたい。(鍛造、鋳造、金型、金属プレス企業)
・新興国ではできない新素材、鉄の代替材料などへのチャレンジしか、国内生産の生き残る道はない。(鍛造、鋳造、金型、金属プレス企業)
・水ビジネス、原子力、医療用機器、航空機、ロボットなどが素形材産業としての成長分野であり、それに向けては、軽量化、耐久性、耐食性に対する新素材のイノベーションが重要。(鍛造、鋳造、金型、金属プレス企業)
・研究開発をスムーズに促進するためには、新素材の特性や加工における問題点を勉強できる場等、仕組みを作ってほしい。(鍛造、鋳造、金型、金属プレス企業)
〔グローバル化対応への検討〕
・今後は、タイ、インドネシア等のASEAN諸国においてマーケットが拡大していく。(鍛造、鋳造、金型、金属プレス企業)
・国際分業体制の確立には、国内工場の役割と海外工場の役割の仕分けが必要。(鍛造、鋳造、金型、金属プレス企業)
・海外企業との取引には、専門用語を現地語で話す事ができる人材が不可欠。また、海外へのインターンシップへの支援が必要。(金型企業、鋳造企業)
〔現在を支えるものづくり人材の育成・強化への検討〕
・団塊世代が次々と退職していくため、若い世代へ生産技術等の承継がされず現場の生産技術力が低下。現場の生産技術力を低下させないための対策が必要。(鍛造、金型企業)
・いくら設備投資をしても、機材を扱える人間、それを指導する人間が不可欠。(鋳造企業)
・鍛造協会等の開催するセミナー等は、開催地が東京都等県外であり、旅費等の費用負担が大きいうえに時間も有し生産活動に影響が生じることから、鳥取県内でセミナーを開催する方がより多くの社員が参加でき効果的。(鍛造企業)
・ものづくりの中小零細企業の人材面における最大の課題は、社長のブレーン等マネジメント能力のある人材がいないこと。社長にとって変わる人材を育成する事が大事。(鉄構工業会)
6 今後の展望
〔自動車産業の戦略に歩調を合わせた対応が基本〕
素形材産業の最大ユーザーが自動車産業であり、欧米を中心にEV等が普及、一方、新興国では、低価格な内燃機関自動車が伸びていく。
(1)エネルギーの有効利用の観点から軽量化・省エネ化が必要
(2)次世代自動車に必要な部品(モーター、バッテリー関係)への研究開発が必要
〔新たな成長分野への展開〕
リーマンショックの経験から、自動車等の特定産業に過度に依存せず、リスクヘッジとして、成長分野への取り組みなどバランスのとれた事業構造に変革する必要がある。
(1)環境・エネルギー(原子力、火力、小水力等の発電部材、省エネルギー設備等)
(2)医療・福祉(生体材料、医療機器、生活支援ロボット等)
これまでの取組と成果
これまでの取組状況
平成23年度6月補正(政策戦略)で、新素材等の成形技術開発支援制度を予算化。現在、3件が研究開発中。
これまでの取組に対する評価
国内受注を確保するためには、新素材等の研究開発に取り組む事業者を増やしていく事が課題。
今後、研究開発の取り組みを増やしていくための仕組みづくりを作っていく必要がある事から、地元素形材産業界とキャビネットを通じて、研究シーズを生み出す仕組みを検討してきたところ。