概略説明
(1)消費者は、「安全・安心」な農産物を求めており、有機・特別栽培農産物の潜在的な需要があるが、園芸作物の十分な供給は出来ていない。
(2)一方、できれば化学農薬や化学肥料を使用したくないという生産者が多いが、有機・特別栽培では、化学農薬の使用が制限されることから、病害虫防除に対する不安から、園芸作物ではこれらの栽培は期待したほど進んでいない。
(3)しかし、有機・特別栽培を既に実施している生産者や志向生産者等からは、化学農薬に替わる防除対策の確立について望む声が高く、農薬を削減した病害虫管理体系が構築できれば、有機・特別栽培の増加が見込まれる。
(4)そこで、これまで検討を行っていない病害虫に対する農薬代替対策を検討し、これまで明らかとなった農薬代替技術を含めて、病害虫管理体系として組み立てる。
(5)他都道府県でも「環境にやさしい農業」の研究は取り組まれているが、鳥取県特有の気象条件下ではその成果をすぐに活用できないのが現状である。そのため、鳥取県における有機・特別栽培で利用可能な病害虫管理体系の構築を図る。
1 事業の必要性
(1)国及び鳥取県では、法律の制定や様々な制度を活用し「環境にやさしい農業」の支援及び推進を行っており、有機・特別栽培農産物の栽培面積増加を図っている。
(2)消費者の「安全・安心」志向の高まりから、有機・特別栽培農産物の潜在的な需要はあるが、園芸作物の十分な供給は出来ていない。
(3)有機・特別栽培の安定的な栽培を可能にするため、鳥取県の気象条件下で利用可能な病害虫管理体系の構築が必要である。
2 事業の内容
(1)ナシの病害虫管理体系の構築
・黒星病、うどんこ病等の対策として亜リン酸資材、微生物農薬を利用
・ハダニ類、ニセナシサビダニ、クワコナカイガラムシに対するマシン油乳剤を利用
・突発的なマイナー害虫の発生にも対応可能であり、特別栽培に対応した病害虫管理体系の構築
(2)ネギの病害虫管理体系の構築
・アザミウマ類に対する土着天敵を活用するためのコンパニオンプランツ、リビングマルチの利用
・軟腐病に対する微生物農薬の利用
・特別栽培に対応した病害虫管理体系の構築
(3)ブロッコリーの病害虫管理体系の構築
・黒腐病、花蕾腐敗病等の対策として無機銅剤、微生物農薬等を利用
・チョウ目害虫、アブラムシ類等の対策としてコンパニオンプランツ、微生物農薬、気門封鎖剤を利用
・有機栽培に対応した病害虫管理体系の構築
※コンパニオンプランツとは:種類の違う植物同士を近くに植えることによって病害虫の発生を防ぐ、生育が良くなる、食用植物の風味が増すなど、互いに良い影響を及ぼしあい共栄する植物。
※リビングマルチとは:主作物の播種前または播種と同時に植えられ、主作物の栽培期間中の全部または一部期間にも生存して、地表面を被覆している植物であり、土壌浸食防止、雑草抑制、地温・土壌水分調節、景観の向上等が期待できる。
3 事業の効果
(1)志向生産者に対する情報提供により、有機・特別栽培農産物の栽培面積の増加
(2)鳥取県における有機・特別栽培に利用可能な防除技術の確立による、消費者への供給量の増加
(3)「食のみやこ鳥取県」をリードする特色ある農産物の栽培面積拡大によるイメージアップ
(4)一般の生産者にも農薬代替技術の普及
4 これまでの成果
・ナシの黒星病、うどんこ病に亜リン酸資材、微生物農薬が有効
・ナシのシンクイムシ類等のチョウ目害虫に性フェロモン剤が有効
・殺虫剤削減ナシ園に発生するマイナー害虫の発生生態、防除対策をほぼ解明
・ネギの軟腐病に生物農薬、無機銅剤が有効
・ネギの土着天敵に影響の少ない選択的殺虫剤の効果を確認
・ブロッコリーの黒腐病、花蕾腐敗病に生物農薬、無機銅剤が有効
・ブロッコリーのヨトウムシ類等のチョウ目害虫に生物農薬、天然物由来の農薬が有効
・ブロッコリーのアブラムシ類に気門封鎖剤が有効
5 H26の試験内容
(1)ナシの病害虫管理体系の構築
・亜リン酸資材、微生物農薬を利用した病害管理体系の実用性の確認
・性フェロモン剤、マシン油乳剤を利用した虫害管理体系の実用性の確認
(2)ネギの病害虫管理体系の構築
・コンパニオンプランツ、リビングマルチによる土着天敵の保護効果の検討
・微生物農薬を利用した病害管理体系の実用性の確認
(3)ブロッコリーの病害虫管理体系の構築
・コンパニオンプランツによる土着天敵の保護効果の検討
・無機銅剤、微生物農薬等を利用した病害管理体系の実用性の確認
6 平成26年度要求額内訳(千円)
内容 | 要求額 |
旅費 | 338 |
栽培資材・試験資材購入費等 | 2,942 |
合計 | 3,280 |
7 年次別事業内容と事業費
平成26年〜平成29年(4年間)
年度 | 事業費 | 事業内容 |
26 | 3,280 | 農薬削減病害虫管理体系の実用性の検討
コンパニオンプランツ、リビングマルチの効果確認 |
27 | 3,280 | 農薬削減病害虫管理体系の実用性の検討
コンパニオンプランツ、リビングマルチの効果確認 |
28 | 3,280 | 農薬削減病害虫管理体系の実用性の検討
コンパニオンプランツ、リビングマルチの効果確認 |
29 | 3,280 | 農薬削減病害虫管理体系の実用性の検討
コンパニオンプランツ、リビングマルチの効果確認 |
これまでの取組と成果
これまでの取組状況
<目標>
H25工程表政策目標
安全・安心、高品質な農産物の生産技術の確立
主要園芸作物の農薬削減病害虫防除管理体系の構築
<取り組みの内容>
・農薬を使用しない病害虫防除技術については、以前から研究を行っており、成果も出ている。
・個別の農薬削減技術の有効性はある程度明らかになった。
・農薬の削減によって、増加するこれまで問題となっていなかったマイナー害虫の発生生態・防除対策についても概ね解明した
・これまで明らかになった技術と新たに研究する技術を組み合わせ、農薬を削減した病害虫管理体系を構築する
これまでの取組に対する評価
○これまでの取組に対する評価
<外部評価>
平成25年度の外部評価(事前)の結果
評点 11.6
(評点9点以上で試験が継続できる)
○評価委員の主な意見
@非常にニーズの高い研究
Aコスト対効果の検証が必要
Bこれまでの成果、先進地の情報も反映させるように
<自己分析>
これまで開発された農薬削減技術もいくつか現地で利用されているが、十分な体系化ができていないため、有機・特別栽培に繋がっていない。また、防除経費や作業時間が増加する場合は、現地に受け入れられない傾向があるため、防除経費等も含めて検討する必要がある。
3作物について取り組むが、研究結果は他の品目にも活用できる。
<改善点>
・主要品目について全ての病害虫を含めた管理体系を構築する。
・最終的には防除経費等も含め、現地への適用性を検討する。