(1)社会条件の変化
平成14年度から平成16年度の3箇年にわたり、「鳥取県地震防災調査研究」事業を実施し、本県に大きな影響を与える可能性のある地震について、地震による被害の想定、災害シナリオの作成、地震防災対策の検討等を行った。
また、平成22年度に、この被害想定を基本的なベースとして、大規模地震災害による死者数を80%以上、直接被害額を40%以上減少させることを目的とした「鳥取県震災対策アクションプラン」を策定し、県地域防災計画に反映して実施中である(計画期間:平成23〜32年度)。
しかし、地震被害想定に係る前回の調査時点から10年が経過したことで、想定の基礎となった人口分布や建物耐震化状況等の社会条件が大きく変化しており、現在の被害想定によっては、防災・減災対策を実施するに当たっての適切な基礎資料が得られない。
(2)最新の知見の反映
東日本大震災の発生を受け、平成23年度に、日本海側での津波発生の波源域を県独自に再検討して津波シミュレーションを行い、暫定の津波浸水予測図の作成と、津波による人的被害、建物被害の想定を行ったところ。
現在、「日本海における大規模地震に関する調査検討会」(国交省)において、日本海側で想定される津波発生の要因となる大規模な地震の断層モデルを、最新の知見に基づいて構築しているところであり、平成25年度中に示される見込みである。これを受け、県土整備部において、日本海側道府県間の整合性が図られた、「津波防災地域づくり法」に基づく正式な津波浸水想定を新たに設定する予定である。
そこで、暫定的な津波浸水想定に基づき作成されたH23年度の被害想定を廃し、法に基づく津波浸水想定を踏まえた津波被害想定を作成することによって、国が持つ最新の知見を津波被害想定にも反映すると共に、津波による浸水想定と被害想定との整合性を図る必要がある。
また、東日本大震災を始めとした近年の大地震による被害状況を踏まえて見直された新たな被害予測手法や、前回の調査以降のボーリング資料の蓄積等により明らかにされた県内の地盤構造に関する多くの知見等を反映することによって、地震動を含め、想定する被害をより実際に近いものにする必要がある。
なお、文科省における「日本海地震・津波調査プロジェクト」が、平成25年から32年までの8箇年をかけて実施されており、平成26年度〜28年度の少なくとも3箇年は本県周辺のエリアの調査が計画されているが、次のとおり、調査結果の行政における活用は不透明であり、被害想定への早期の反映は難しいと見込まれる。
[1] 当該プロジェクトによる本県周辺の調査は、平成26年度では終了しないこと。
[2] 当該プロジェクトの調査結果は研究レベルのものであり、行政として防災目的に活用するためには、「地震調査研究推進本部」(文科省)等に諮る必要があるところ、その時期は未定であること。
[3] 本県に影響を及ぼしうる地震・津波の発生源は、本県周辺に限らないところ、東北沖、北海道沖を含む日本海側全域の調査と津波波源モデル・震源断層モデルの構築が完了するのは、平成32年度の予定であること。
(3)従来の被害想定を使用することによる弊害
現状とは異なる社会条件、自然条件を基礎として、なおかつ旧来の手法により作成された被害想定の内容は、実際に発生する被害とは様相を異にする可能性が高い。このような想定を見据えて防災・減災対策を実施したとしても、的外れな施策によって、費用的・時間的に無駄、非効率が生じるのみならず、不作為によって、本来であれば救えた県民の生命、財産を災害によって損なうおそれもある。
また、県民に対して防災対策を促すに際しても、信頼性の低い想定を示したのでは、説得力に欠けることとなる。
(4)被害想定見直しの重要性
[1] 国における首都直下型地震や南海トラフ地震の被害想定は、短期間で更新されている。
[2] 東日本大震災以降の他都道府県の状況をみると、20の都道府県において被害想定の見直しが終わり、18の府県において見直し中又は見直し予定である。また、平成16年度以前に前回被害想定を行った県のうち、見直しの予定が無いのは、本県を含め全国で5県のみの状況である(内3県は、東北・北関東の被災県であり、復興に注力していると考えられる)。このことからも、被害想定見直しの重要性が極めて高いことが全国的な共通認識となっていることは明らかである。
(1) 被害想定の見直し
本県に影響を及ぼす可能性が高い地震について、以下の項目に関する被害想定等を改めて実施する。
○人的被害
○建物被害
○交通施設、ライフライン施設の被害
○社会機能支障
○地域危険度
○経済被害(復旧に要する費用(直接被害)と震災の影響による生産額の減少額及びコスト増額(間接被害)の試算)
※間接被害の試算については今回初めて実施
(2) 被害予測システムの構築
県内に設置する地震計からの震度情報等をもとに、震度分布、建物倒壊数や死傷者等の被害予測を瞬時に行うシステムを構築する。
○防災・減災対策の必要性に関する県民の意識が醸成され、県民が自発的・主体的に行動し、もって地域防災力のさらなる向上が図られる。
←東日本大震災をはじめとする近年の大規模災害の発生等を受け、県民の防災に対する意識は徐々に高まってきているが、自らの危険性が明らかにならなければ、自発的・主体的な自助、共助の取り組み(地域防災力)の向上は進みにくい。
○防災・減災対策の必要性に対する県民の理解が深まることによって、県等が行う対策への理解と協力を得ることができる。
○県等が実施すべき防災・減災対策の最適化が図られ、対策を効率的に行うことができる。
○発災時における支援規模検討の基礎資料の精緻化が図られ、より適切な支援を迅速に実施することができる。
<被害予測システムの必要性について>
○本システムの予測結果が、実際の被害と同様であるとの保証はないが、災害対応は、被害を最小限にとどめるためにできるだけ正確な被害想定に基づいて行うのが基本であり、最大被害の想定だけでは基礎資料として不足である。
○実際の被害状況を把握してから支援活動を開始したのでは、被害の拡大を許してしまうことになるため、現在の災害対策では、大きな災害であるほど、被害を想定して直ちに対応するのが原則となっている。