1 事業概要
TPPの大筋合意を受け、鳥取和牛のブランド化をさらに強力に進めるため、現在研究中の和牛肉の「うまみ」に大きく関係している「香り」及び様々な物質を特定するための機器「ガスクロマトグラフ質量分析計(以下GCMS)」整備を行う。また、最終的に簡易測定機器を開発することで、TPPを見据えて海外展開のできる新たなブランド化の創出や、鳥取和牛の育種改良手法の開発につなげていく。
2 背景目的
(1)10月5日のTPP閣僚会合での大筋合意を受け、牛肉、乳製品で関税の縮小や輸入枠の拡大が決定した。和牛肉は影響が少ないと言われているが、安価な海外産牛肉が国内に入ってきた場合、影響は避けられないため、海外産牛肉との差別化を図り、鳥取県産牛肉の優位性を早急に示す必要がある。
(2)和牛肉のおいしさは「脂」と「赤身」にあるが、「脂」については「鳥取和牛オレイン55」でブランド化を図っているが、「赤身」のおいしさについては、確固たる指標はまだ確立されていない。
(3)赤身のおいしさの中心は「香り」であると研究成果はあるが、「香り」についての研究を行っている機関はまだ少なく、未だにどの機関も「香り」を特定するには至っていない。そのため「香り」に関係する物質を早急に特定し、その「香り」を付与した鳥取和牛の開発を進めることがTPPや産地間競争に打ち勝つ方策である。
(4)「百合白清2」「白鵬85の3」は霜降りが優れているのみならず、その産子の肥育牛を食べた人は「おいしい」「香り」がよいとの評価も高く、この2頭特有の「香り」成分を早急に特定することが鳥取和牛のブランド化の最短距離とも考えられる。
(5)平成29年9月に宮城で行われる第11回全国和牛能力共進会において、このGCMSを使ったメタボローム解析により、出品牛を選抜することを検討しており、そのためには、早急に機器整備を行い、データを蓄積していく必要がある。
※メタボローム解析:代謝物の網羅的な解析。牛の血しょうから約100成分の物質が測定でき、それにより、牛の健康状態や肉質などが分かる。(データを蓄積、分析し、健康状態や肉質推定のソフトの開発にもつながる)
(6)現在、鳥取県の農林系の試験場には、おいしさを分析できるGCMSがない。当場としては、農林系試験場すべてで活用できる機器として整備したいと考えている。例えば今回、らっきょうの「香り成分」の分析も行ったところ、興味深い結果が出ており、鳥取県産らっきょうの差別化にも十分寄与可能と考えている。
3 期待される効果
鳥取和牛の「うまみ」の主要因となる成分を突き止め、瞬時に「うまみ」を数値化して全世界の消費者に説得力のある裏付けデータを提示することで、他県あるいは海外産との差別化を図り、鳥取和牛を世界に打ってでることができる。
4 事業内容
(1)和牛肉の「香り」分析等を行う上で必要なガスクロマトグラフ質量分析計の要求
ガスクロマトグラフ質量分析計とは
気化させた数多くの物質をそれぞれに分離させ、その分離した物質の物質量を測定することで、物質を特定する機器である。この機器により、検体に含まれる成分が何種類あって、どのくらいの量があるのかが分かる
(2)和牛肉の「うまみ」を瞬時に測定する簡易測定器の開発としての九州大学への委託研究費
事業内容 | 金額(千円) |
ガスクロマトグラフ質量分析計
九州大学への委託研究費
機器の定期点検
標準事務費(研究用試薬等) | 32,400千円
5,000千円
660千円
3,019千円 |
合計 | 41,079千円 |
これまでの取組と成果
これまでの取組状況
<取り組み>
(1)和牛肉のうまみに関係する脂肪中の「オレイン酸」の鳥取和牛肉の現状を調査。
(2)オレイン酸の鳥取和牛新ブランド基準への導入の取り組み
(3)味覚センサーを活用し、赤身肉のうまみに関係するアミノ酸の特定
<成果>
(1)オレイン酸は性・と畜月齢・血統などにより影響を受けることが判明。血統的特徴の調査では、「気高」の血統を引き継ぐ鳥取系はオレイン酸割合も高くなることが判明。
(2)食味試験等の結果を基に「オレイン酸55%かつ気高号の血縁を引き継ぐもの」を鳥取和牛新ブランド基準とすることが決まった。また、ブランド認定機関に対し、オレイン酸測定をサポート。
(3)和牛肉のオレイン酸割合の遺伝的影響は高い(遺伝率0.78)ことから、計画交配や遺伝子解析などによる遺伝的な面からの改良が効果的と判明。
(4)味覚センサーを活用し、赤身肉の「うまみ」に関係するアミノ酸として、グルタミン酸、セリン、アルギニンは好ましい関係、カルノシンは好ましくない関係があることが判明(日本畜産学会で発表)
これまでの取組に対する評価
<自己分析>
和牛肉の脂肪に含まれるオレイン酸を指標化した「鳥取和牛オレイン55」の誕生に本事業での研究結果が活かされた。
<改善点>
新ブランド認定基準にオレイン酸が導入されたことから、鳥取和牛肉の脂肪の質の改良が期待される。今後は新たな「うまみ」に関する成分の調査、指標化に取り組む必要がある。
<今後の取り組み>
味覚センサーを活用した試験結果をベースに、さらに赤身肉の「うまみ」成分を特定していく。アミノ酸に加え、香りや糖類の分析も進める予定。特定後は、「鳥取和牛オレイン55」と同様に簡易評価法を検討し、他県を先行する鳥取和牛肉のブランド化及び改良につなげていく。