概略説明
本県の砂丘地ではラッキョウ、白ネギ、ナガイモなどの特産野菜が生産されているが、病害や品種の問題により、収量・品質の低下が問題となっている。そこで、病気に強く、収量の安定した新品種を育成・実用化し、産地の振興を図る。
1 事業の必要性
(1)ラッキョウ
鳥取産の砂丘ラッキョウは乾腐病に非常に弱く、この病気を防ぐため、農薬による種球消毒や種球の冷蔵保存を行う必要がある。栽培農家からは乾腐病に強い品種の開発が強く望まれている。
鳥取産ラッキョウのブランド力を維持と向上のため、早期出荷を可能にする早生品種の開発や、従来より食味が良く、機能性の高い新品種の開発・育成が望まれている。
乾腐病以外にも、近年、ウイルス病や、灰色カビ病等の病害虫による収量の低下が問題になっている。そこで、ウイルス病等に強く、収量の低下しにくい新品種の育成が望まれている。
(2)ナガイモ
平成16年に品種登録されたナガイモ新品種「ねばりっ娘」は粘りが強く、良食味であり、ナガイモよりも高値販売されている。また、根が短いため堀取りやすく折れにくい等省力的なため、年々栽培面積が増加している。
しかし、「ねばりっ娘」は長いものように切いもでは増殖しないため、むかごから種芋を養成する必要がある。
生産者から、粘りが強く、種芋の育成が容易、ナガイモと同等の耐病虫性を有する品種が望まれており、現在、有望な系統を育成している。しかし、ウイルスに弱く、収量性が低下したことから、弱毒ウイルスにより収量性の回復を行い、実用化を目指す。
(3)白ネギ
鳥取県は全国でも数少ない白ネギの周年栽培産地である。5月中旬から下旬にかけて、抽台が発生するため、株分けで増殖する「坊主不知ネギ」が栽培されているが、品種改良が進んでいないため品質が劣り、産地からは品質の高い坊主不知ネギの育成が要望されている。
2 事業の内容
(1)ラッキョウ
ア 子房培養を用いて作出する交雑種の中から、下記の特性を持つ品種を育成し、実用化を図る。
・乾腐病に耐病性である。
・ウイルス病、灰色カビ病に耐病性である。
・在来の系統より、収量性、食味、機能性が優れる。
イ 事業の流れ:人工交配 → 子房培養による雑種の作出 → 乾腐病等に強い系統の選抜 → 高収量・良食味・高機能性系統の選抜 → 産地適応性試験・種苗増殖 → 品種登録 → 普及
(2)ナガイモ
ア ねばりっ娘と同様に強い粘りをもち、ねばりっ娘より食味の評価が高く、種芋の育成が容易な有望系統を育成したが、ウイルス感染により収量性が低下した。このため、弱毒ウイルスを接種し、収量性の回復を図る
イ 事業流れ:弱毒ウイルスによる有望系統の収量性回復試験 → 産地適応性試験・種苗増殖 → 品種登録 →普及
(3)白ネギ(坊主不知)
ア 県西部で栽培されている坊主不知の優良選抜系統や、品質の高い一本ネギを活用し、交配によって雑種を作出し、収量・品質の高い坊主不知系統を育成する。
イ 事業流れ:交雑種の作出→選抜→ 産地適応性試験・種苗増殖 → 品種登録 →普及
3 事業の効果
(1)ラッキョウ
ア 種球消毒や冷蔵保存のコスト、労力等の削減
イ 病害等による収量の低下を防ぎ、収穫量の増加。
ウ 鳥取オリジナルの良食味・高機能性品種の低農薬栽培による 本県産のブランド力アップおよび有利販売
(2)ナガイモ
ア 鳥取のオリジナル品種として高値有利販売が期待できる。
イ ナガイモと同様に切いもで増殖が可能となり、「ねばりっ娘」より増殖が容易になる。
(3)白ネギ
ア 5月中旬〜下旬出荷の白ネギの品質が向上する。
イ 年間を通じて品質の高い白ネギの供給が可能となる。
4 これまでの成果
(1)ラッキョウ
・乾腐病に強く、食味の良好な選抜系統「R5」:H26品種登録申請予定。
・乾腐病に強く、収量性が高い中玉系統を新たに4系統選抜した。
・約1,000系統の交雑種を新たに作出した。
(2)ナガイモ
・ねばりっ娘より食味がよく、種芋の育成が容易な有望な1系統を選抜した。
・ウイルス病にかかっても収量の減少が軽減される弱毒ウイルスの接種試験を開始した。
5 平成27年度の試験内容
(1)ラッキョウ
・選抜した系統について現地適応性試験を実施する。
・新たに作出した1000系統以上の交雑種の中から乾腐病に 強い系統を一次選抜する。
・これまでに選抜した乾腐病耐病性系統の中から、早期収穫 性、高収量性、ウイルス耐病性、良食味性等の優良な系統 を選抜する。
(2)ナガイモ
・弱毒ウイルス接種試験
・有望系統の種芋増殖
・栽培評価試験
(3)白ネギ
・坊主不知系統や一本ネギの交雑種の作出
6 平成27年度要求額
内 訳 | 要求額
(千円) |
会議・学会等への出張費 | 208 |
組織培養および栽培管理費(資材・試薬等) | 2,972 |
役務費(通信運搬費) | 20 |
合 計 | 3,200 |
7 年度別試験内容・事業費
年度 | 試験内容 | 事業費
(千円) |
27〜
29年 | ラッキョウ
・新たな乾腐病抵抗性系統の作出
・高収量性、良食味、高機能性の評価
ナガイモ
・弱毒ウイルス接種
・収量性比較試験
白ネギ(坊主不知)
・新たな坊主不知交雑種の育成
・幼苗による栽培評価・選抜 | 9,600 |
30〜
32年 | ラッキョウ、ナガイモ
・実用性評価
白ネギ(坊主不知)
・幼苗による栽培評価・選抜
・本栽培試験評価 | 9,600 |
合計 | | 19,200 |
これまでの取組と成果
これまでの取組状況
バイテクによるナガイモ及びラッキョウ新品種の育成(H17〜26年)
<目標>
特徴ある鳥取オリジナル品種の育成
・ナガイモとラッキョウの新品種を育成し、実用化する。
<試験の取り組み内容>
1 ナガイモ新品種の育成
・ねばりっ娘と形状及び粘りが同等で、萌芽率が高く種芋の育成が容易で、ねばりっ娘より食味がよい有望な1系統を選抜した。現地ほ場3か所で適応性試験を実施した結果、収量性がやや劣った。ウイルス病が原因と判明し、弱毒ウイルスの接種試験を開始。
2 ラッキョウ新品種の育成
・乾腐病に強く、収量性が高く有望と思われる中玉系統を2系統選抜した。
・新たに中玉の耐病性優良系統を選抜するために、423系統の交雑種を作出した。
<現時点における達成度>
・ナガイモ新品種の育成 60%
・ラッキョウ新品種の育成 80%
これまでの取組に対する評価
この課題に対する事前評価結果
平成26年度 外部評価委員会 試験研究課題評価(8月5日)
評点 12.8 判定◎ 評点9点以上で実施可能
<評価委員の主な意見>
・これまでの強みを活かした新しい取り組みとなっている。
・研究の目標と計画に具体性もある。
・全国的に上位にある作物へ力を入れることは評価できる。
・白ネギについては、担当部署を一元化してはどうか。
⇒坊主不知ネギの品種育成は、交雑、初期段階の選抜は生物工学研究室で行い、その後現場に近い弓浜砂丘地分場で選抜を行う方針としている。