1 事業概要
畜産経営排水の処理適正化や硝酸性窒素等の暫定基準値引下げに対応した技術の検討及び現地実証試験を実施して、地域と調和した収益性の高い畜産経営の施設整備、増頭などの生産基盤強化に向けた支援のための技術確立を行う。
また、適正処理の持続のために現場での簡易測定方法の検討を行い、指導者向けの現場測定マニュアルを作成する。
2 背景
(1)畜産農家から排出される汚水は、家畜尿以外に畜舎から排出される洗浄水や搾乳施設からの排水があるが、これらの汚水には窒素やリンが多く含まれるため、地下水や河川へ流出した場合は水質汚濁の原因となる。そのため、水質汚濁防止法により、一定規模以上の畜産事業所から排出される汚水については、所定の水質を満たすよう処理を行うことが義務付けられている。
(2)水質汚濁防止法の硝酸態窒素等の排出基準(一般基準100mg/L)が平成28年7月より改正(暫定基準600mg/L)となり、3年後に再度見直しされる予定である。このため、畜産農家は硝酸性窒素等の浄化処理技術の導入が必要である。
(3)県内に普及した中古FRPサイロを利用した簡易曝気処理や人間用合併浄化槽は設置から約10年が経過し、設計時より飼養頭数や搾乳頭数が増加して浄化槽の処理規模が不足している。また、独自の設置や人間用を利用しているためメンテナンスの委託ができず、管理方法が未整備である。
3 目的
(1)硝酸性窒素等の排出基準引下げに対応した窒素除去率の向上
(2)日常管理の労力削減、運転の安定及び安全化。技術導入コストや維持コストの低減。
(3)浄化処理の適正運転のための迅速な測定方法の検討。
4 事業効果
(1)環境と調和のとれた農業生産活動規範の遵守による経営体質の強化
(2)水質汚濁防止法の排水基準の遵守と硝酸性窒素等の暫定基準値引下げへの対応。
(3)増頭や搾乳施設の改造などを行う際の適正な排水処理の提案。施設への投資削減や電気代など運転コストの削減。
5 事業の内容
(1)硝酸性窒素等の排出基準引下げに対応した窒素除去率の向上試験(H27〜H29年度)
窒素除去に有効である間欠曝気法や循環式硝化脱窒法などのコストや地球温暖化ガス発生量等の比較を行い、窒素除去率の向上を目指す。
(2)日常管理の労力削減、運転の安定及び安全化。技術導入コストや維持コストの低減。
既設浄化槽の性能調査と散気管の形状、固液分離方法や汚泥量など浄化処理方法について検討を行い、浄化槽の改良や設計に必要な規模計算に利用する。
1)既設浄化槽の性能調査(H26年度)
県内の酪農パーラー排水および養豚汚水について現状の問題把握のための分析調査を行い、浄化処理状況や季節による変動を調査することにより、次年度以降の浄化比較検討及び導入開発試験の基礎データとする。
2)散気管試験(H26〜27年度)
浄化槽の処理能力が高く、電気代が安くてメンテナンスが容易な散気管の比較検討。
3)固液分離及び汚泥量による浄化比較(H26〜27年度)
安価で管理が容易な固液分離方法の検討と適正な汚泥量について比較検討を行う。
4)新技術導入開発試験(H27〜H29年度)
畜産草地研究所が開発した脱色やリン除去技術であるCSH接触等と窒素の硝化・脱窒技術を組み合わせ、なおかつ鳥取県の気候や飼育規模に適した新技術を開発する。
(3)浄化処理の適正運転のための迅速な測定方法の検討(H26〜H29年度)
指導者(環境アドバイザー)向けに現場での測定項目や簡易分析方法の検討を行い、「現場測定マニュアル」を作成する。また、改造事例集や新技術の導入事例集を作成する。
6 事業期間、総事業費
(1)事業期間 平成26年〜29年
(2)総事業費
年度 | 事業内容 | 事業費
(千円) |
H26 | 既設浄化槽の性能調査、散気管試験、固液分離及び汚泥量による浄化比較試験、迅速な測定方法の検討 | 1,522 |
H27 | 窒素除去率の向上試験、散気管試験、固液分離及び汚泥量による浄化比較試験、新技術導入試験、迅速な測定方法の検討 | 8,385 |
H28 | 窒素除去率の向上試験、新技術導入試験、迅速な測定方法の検討 | 760 |
H29 | 窒素除去率の向上試験、新技術導入試験 | 838 |
合計 |  | 11,505 |
(3)平成29年度 要求額内訳
内訳 | 要求額(千円) |
| 技術打ち合わせ、研究会等の旅費 | 127 |
| 試験に係る資材、分析薬品費等 | 633 |
| 一酸化二窒素分析委託 | 78 |
合計 | 838 |
これまでの取組と成果
これまでの取組状況
<取組>
(1)硝酸性窒素等の排出基準引下げに対応した窒素除去率の向上試験
中古FRPサイロを活用した酪農家パーラー排水処理施設での改修を行い、水質の推移及び運転状況を調査した。
(2)浄化処理方法の検討
新技術である炭素繊維を用い、豚舎排水の処理について炭素繊維の量、曝気送風量の条件を調査した。
(3)適正運転のための迅速な測定方法の検討
放流水のBOD濃度と硝酸性窒素等との関連性、曝気槽の水温及びpH、電気伝導率、酸化還元電位、電気伝導率等について連続測定した。
<成果>
(1)流量調整槽の設置とメンブレン式散気管及びインバータ設置、沈殿槽へのスカムスキマーの設置により低コストな改修で電気代削減や水質基準を安定的に満たす運転方法を確立した。
(2)炭素繊維の量により硝酸性窒素除去効果が向上するが、アンモニア性窒素を硝化するためには、曝気のための送風量の調整あるいは酸素溶解効率を高める必要がある。
(3)現場で測定できるCOD簡易比色法、SV30及び透視度測定で、施設の適正運転を確認可能。また、多項目水質計で数値の見える化等を図り、問題確認や改善効果の確認に効果があった。
これまでの取組に対する評価
<自己分析>
・低コストで水質基準を安定的に満たす改修と運転方法を確立した。
<課題>
新技術の硝酸性窒素等の浄化条件を検討し、効率的な設置方法を明らかにする。また、除去の新技術や簡易な測定方法の整備や改善事例集を作成する。