概略説明
(1)鳥取県では戦前からナシの輸出を継続しており、県は輸出拡大を目標にしているが、輸出果実に微小害虫が付着して不合格になる事例が毎年発生しているため、微小害虫に対する防除強化対策を確立する。
(2)「なつひめ」で環状剥皮を行うことにより、熟期促進、糖度向上効果が認められ、「二十世紀」との販売競合を避けることが可能になり、普及が進んでいる。他品種でも環状剥皮の実施が検討されているが、環状剥皮による癒合部分からの樹幹害虫の侵入が問題化してきているため、その生態を解明し、防除対策を確立する。
(3)「二十世紀」から新品種への改植、高接ぎが進んでいるが、県内各地で、主幹・枝の枯死、異常が発生し、被害・症状と原因病害虫との関係が特定できていないことから、どのような対策が有効か不明である。また、異常樹の一部では木材腐朽菌(きのこ)が確認され、原因の一つと考えられるが、本菌については研究がほとんど行われておらず、県内の発生実態、感染経路は不明である。そこで、主幹・枝の枯死、異常の発生状況の実態とその原因を解明し、対策マニュアルを作成する。
1 事業の必要性
(1)鳥取県では、「鳥取県農業活力増進プラン」(平成27年3月)において、平成32年までの10年間に輸出額の倍増、果樹新品種を活かした産地新興を目指している。
(2)農林水産省でも輸出重点品目に関する防除体系の確立に向けた事業を行っているが、問題となる病害虫が地域によって異なっているため、その結果を直接本県には導入できず、本県独自の防除体系を構築する必要がある
(3)ナシにおける環状剥皮の利用は、他県等では検討されていない。
(4)主幹・枝の枯死、異常等については、他県等でも発生しているが、原因となる病害虫は異なっている。また、ナシの木材腐朽菌の内、萎縮病については国等の研究事例があるが、その他の菌については検討されていない。
2 事業の内容
(1)微小害虫に対する防除強化対策の確立
(2)なつひめの環状剥皮で問題となる樹幹害虫対策
(3)枝幹に発生する病害虫の実態解明と防止技術の実証
3 事業の効果
(1)研究成果を生産者に情報提供することによって、輸出の際の検査において輸出停止となる事態は無くなり、経済的な損失が減少する。
(2)なつひめの早期出荷、安定生産による商品力の向上、高単価の維持が図れる。
(3)園内の欠損樹減少によるナシ生産性の向上、所得増加が期待できる。
(4)生産者のナシ栽培に対する継続意欲向上につながる。
(5)消費者へも高品質のナシを未来に向けて安定供給できる。
4 これまでの成果
・ハダニ類に対する休眠期〜生育期の防除対策は、概ね確立している。
・カキの樹幹害虫の防除対策は確立した。
・胴枯病に対する防除対策は概ね確立している。
5 H30の試験内容
(1)微小害虫に対する防除強化対策の確立
・休眠期の防除強化によるカイガラムシ類対策
・秋季収穫後の防除強化によるダニ類対策
(2)「なつひめ」の環状剥皮で問題となる樹幹害虫対策
・樹幹害虫の侵入時期、侵入過程の解明
・有効薬剤の散布等による防除対策の確立
(3)枝幹に発生する病害虫の実態解明と防止技術の実証
・被害・症状の分類と原因解明
・木材腐朽菌の同定・分類と感染経路の解明
6 平成30年度要求額内訳(千円)
内容 | 要求額 |
旅費 | 316 |
栽培資材・試験資材購入費等 | 2,413 |
合計 | 2,729 |
7 年次別事業内容と事業費
年度 | 事業費 | 事業内容 |
30 | 2,729 | ナシ病害虫の発生状況把握と有効な防除対策の検討 |
31 | 2,729 | ナシ病害虫の発生状況把握と有効な防除対策の検討 |
32 | 2,729 | ナシ病害虫の発生状況把握と有効な防除対策の検討 |
33 | 2,729 | 防除体系実証、対策マニュアルの作成 |
これまでの取組と成果
これまでの取組状況
<目標>
H29工程表政策内容
安全・安心、高品質な農産物の生産技術の確立
<取り組みの内容>
・微小害虫については、ハダニ類の休眠期〜生育期の防除対策は検討しているが、その他のダニ類、カイガラムシ類の防除対策は未検討であり、ナシ輸出の防除体系確立に向けた取り組みも未検討である。
・樹幹害虫については、カキの樹幹害虫の防除対策は確立済みであるが、ナシの樹幹害虫対策は未検討であり、害虫の発生時期、侵入経路等が異なると考えられる。
・主幹・枝の枯死、異常については、対策が検討されている病害虫もあるが、被害状況と原因、それに対応した有効な対策が明らかになっていないため、検討が必要である。
これまでの取組に対する評価
<外部評価>
平成29年度の外部評価(事前)の結果
評点:12.4(評点9以上で試験実施)
○評価委員の主な意見
鳥取のブランド品目であるナシの病害虫対策として重要性が高く、ナシ産地の維持のため、必要性がある。
<自己分析>
・今後ナシの輸出を支障なく行うためには、輸出検査で問題となる害虫に対する防除体系の確立が必要である。
・樹幹害虫の発生、主幹、枝の枯死等が発生すると生産者の栽培意欲が著しく低下するため、産地を維持するためには早急な対策が必要である。
・これまで他県等で検討されていない内容がほとんどであり、県独自で取り組む必要がある。
<改善点>
・主幹・枝の枯死、異常については、栽培現場で利用可能な対策マニュアルの作成を行う。