概略説明
本県の砂丘地ではラッキョウ、白ネギ、ナガイモなどの特産野菜が生産されているが、病害、品種等の問題により、収量・品質の低下が問題となっている。そこで、病気に強く、収量の安定した新品種を育成・実用化し、産地の振興を図る。
1 事業の必要性
(1)ラッキョウ(生産戸数 385戸、面積 203 ha、生産額 11.8億円/H27)
ア 鳥取産の砂丘ラッキョウはカビの病気である乾腐病に非常に弱く、これを防ぐため、高価な農薬による消毒および種球の冷蔵保存を行う必要がある。栽培農家からは、これらのコストや手間を削減するため、乾腐病に強い品種の開発が強く望まれている。
イ 鳥取産ラッキョウのブランド力を維持し向上するため、早期出荷を可能にする早生品種の開発や、従来より食味が良く、機能性の高い新品種の開発・育成が望まれている。
ウ 乾腐病以外にも、近年、ウイルス病や、灰色カビ病等の病害虫による収量の低下が問題になっている。そこで、ウイルス病等に強く、収量の低下しにくい新品種の育成が望まれている。
(2)ナガイモ(生産戸数103戸、面積31.62ha、生産額4.3億円/H28 ナガイモ、‘ねばりっ娘’合算)
ア 平成16年に品種登録されたナガイモ新品種「ねばりっ娘」は粘りが強く、良食味であり、ナガイモよりも高値販売されている。また、掘り取りやすく折れにくいことから作業性が良いため、年々栽培面積が増加している。
イ しかし、「ねばりっ娘」は長いものように切いもでは増殖しないため、むかごから種芋を養成する必要がある。
ウ 生産者から、粘りが強く、種芋の育成が容易で、ナガイモと同等の耐病虫性を有する品種が望まれており、現在、有望な系統を育成している。しかし、ウイルスに弱く、収量性が低下したことから、弱毒ウイルスにより収量性の回復を行い、実用化を目指す。
(3)白ネギ(生産戸数1,100戸、面積670ha 生産額32.6億円/H27)
ア 鳥取県は全国でも数少ない白ネギの周年栽培産地である。5月中旬から下旬にかけて、抽台が発生するため、株分けで増殖する「坊主不知ネギ」が栽培されているが、品種改良が進んでいないため品質が劣り、産地からは品質の高い坊主不知ネギの育成が要望されている。
2 事業の内容
(1)ラッキョウ
ア 子房培養を用いて作出した交雑種の中から、乾腐病、ウイルス病、灰色かび病に耐病性があり、従来の系統より収量性、食味、機能性に優れる品種を育成し、実用化を図る。
イ 事業の流れ:人工交配→子房培養による雑種の作出→耐病性のある系統の選抜→高収量・良食味・高機能性系統の選抜(現段階)→産地適応性試験・種苗増殖→品種登録→普及
(2)ナガイモ
ア 「ねばりっ娘」と同様に強い粘りをもち、「ねばりっ娘」より食味が良く、種芋の育成が容易な有望系統を育成中である。ウイルス感染による収量性の低下が懸念されるため、収量の低下しにくい弱毒ウイルスを接種し、収量性の回復を図る。
イ 事業流れ:弱毒ウイルスによる有望系統の収量性回復試験(現段階)→産地適応性試験(平成30年度予備試験)→種苗増殖→品種登録→普及
(3)白ネギ
ア 県西部で栽培されている坊主不知の優良選抜系統や、品質の高い一本ネギを活用し、交配によって雑種を作出し、収量・品質の高い坊主不知系統を育成する。
イ 事業流れ:交雑種の作出→選抜(現段階)→ 産地適応性試験・種苗増殖 → 品種登録 →普及
3 事業の効果
(1)ラッキョウ
ア 乾腐病対策の高価な農薬や、種球の冷蔵保存のためのコスト・労力が削減できる。
イ 病害等による収量の低下を防ぎ、収穫量がアップする。
ウ 鳥取オリジナルの良食味・高機能性品種を低農薬栽培することで本県産のブランド力アップおよび有利販売につながる。
(2)ナガイモ
ア 鳥取のオリジナル品種として高値有利販売が期待できる。
イ ナガイモと同様に切いもで増殖が可能となり、「ねばりっ娘」より増殖が容易になる。
(3)白ネギ
ア 5月中旬〜下旬出荷の白ネギの品質が向上する。
イ 年間を通じて品質の高い白ネギの供給が可能となる。
4 これまでの成果
(1)ラッキョウ
ア 乾腐病に強く、食味の良好な新品種「レジスタファイブ」を平成28年5月30日に出願公表した。
イ 乾腐病に強く、収量性が高い中玉系統を新たに4系統選抜した。
ウ 灰色かび病に強い新系統育成を目指し、平成27年度に47系統を一次選抜、平成28年度に9系統を二次選抜、平成29年度に5系統を三次選抜した。また灰色かび病の接種の検討を行っている。
(2)ナガイモ
ア 「ねばりっ娘」より食味がよく、種芋の育成が容易な1系統に加え、食味に優れ、粘りが強く揃いの良い1系統を選抜した。
イ ウイルス病にかかっても収量の減少が軽減される弱毒ウイルスの接種を行い、収量性を比較した(調査中)。
(3)白ネギ
ア 県内で選抜された優良系統の自殖交配9系統と、系統間交雑の4系統の種子を獲得した。
イ 播種育成した苗、自殖交配6系統(203個体)と、系統間交雑の4系統(97個体)を仮植した。
5 平成30年度の試験内容
(1)ラッキョウ
ア 新たに作出した1000系統以上の交雑種の中から乾腐病に強い系統を選抜する。
イ これまでに選抜した乾腐病耐病性系統の中から、早期収穫性かつ高収量性、ウイルス耐病性、良食味性等の優良な系統を選抜する。
ウ 灰色かび病に強い新系統育成を目指し、平成29年度に三次選抜した5系統について栽培特性を調査する。また灰色かび病接種の接種試験のために種球増殖をする。
(2)ナガイモ
ア 弱毒ウイルス接種による収量性を評価する。
イ 有望系統(2系統)の種芋増殖をはかり、栽培性を評価する。
ウ 有望系統の1つの現地適応性試験を行い、現地での栽培性を評価する。
(3)白ネギ
ア 平成28年度に仮植した坊主不知ネギの自殖交配6系統(203個体)、系統間交雑4系統(97個体)の中から、抽台しない系統を一次選抜する。
イ 仮植圃において正常に生育している個体を増殖する。
6 平成30年度要求額
内訳 | 要求額(千円) |
会議・学会等への出張費 | 208 |
組織培養および栽培管理費(資材・試薬等) | 2,683 |
現地栽培委託費 | 65 |
通信運搬費 | 20 |
合計 | 2,976 |
7 年度別試験内容・事業費
年度 | 試験内容 | 事業費
(千円) |
27〜
32年 | (1)ラッキョウ
人工交配→子房培養による雑種の作出→耐病性のある系統の選抜→高収量・良食味・高機能性系統の選抜(現段階)→産地適応性試験・種苗増殖→品種登録(→普及)
(2)ナガイモ
弱毒ウイルスによる有望系統の収量性回復試験(現段階)→産地適応性試験(平成30年度予備試験)→種苗増殖→品種登録(→普及)
(3)白ネギ
交雑種の作出→選抜(現段階)→産地適応性試験・種苗増殖→品種登録→(普及)
それぞれ随時、品種登録を行う | (27年)
3,200
(28年)
3,200
(29年)
3,200
(30年)
2,976
(31年)
2,976
(32年)
2,976 |
合計 | 18,528 |
これまでの取組と成果
これまでの取組状況
<目標>
本県砂丘地における特産物のオリジナル品種の育成
・ナガイモ、ラッキョウ、白ネギ(坊主不知)の新品種を育成し、実用化する。
<試験の取り組み状況>
1.ラッキョウ
・乾腐病に強く、食味の良好な新品種「レジスタファイブ」を平成28年5月30日に出願公表した。
・乾腐病に強く、収量性が高い中玉系統を新たに4系統選抜した。
・灰色かび病に強い新系統育成を目指し、平成27年度に47系統を一次選抜、平成28年度に9系統を二次選抜、平成29年度に5系統を三次選抜した。
2.ナガイモ
・「ねばりっ娘」より食味がよく、種芋の育成が容易な1系統に加え、食味に優れ、粘りが強く揃いの良い1系統を選抜した。
3.白ネギ(坊主不知)
・播種育成した苗、自殖交配6系統(203個体)と、系統間交雑の4系統(97個体)を仮植した。
これまでの取組に対する評価
この課題に対する事前評価結果
平成26年度 外部評価委員会 試験研究課題評価(8月5日)
評点 12.8 判定◎ 評点9点以上で実施可能
<評価委員の主な意見>
・これまでの強みを活かした新しい取り組みとなっている。
・研究の目標と計画に具体性もある。
・全国的に上位にある作物へ力をいれることは評価できる。
・白ネギについては、担当部署を一元化してはどうか。
白ネギ(坊主不知)の品種育成は交雑、初期段階の選抜は生物工学研究室で行い、その後現場に近い弓浜砂丘地分場で選抜を行っている。