1 事業の目的・概要
「鳥取県農業活力増進プラン」では高能力種雄牛を活かした「鳥取和牛」のブランド化を推進することが求められている。その方策の一つとして、受精卵移植を利用した和牛増頭に取り組んでいるところ。
生産者段階では未だ普及していない“体外受精卵”に着目し、現場普及に向けて、と場卵巣や経膣採卵(OPU)技術を活用した体外受精培養環境の構築を目指し、一定の成績が得られた。体外受精卵生産の目処は立ったものの、現場普及には受胎率の高い受精卵の増産が必要となっている。なお、本試験は「地方創生推進交付金充当事業」を活用する。
2 主な事業内容
1 体外受精卵技術を利用した和牛増頭
(1)経膣採卵(OPU)における効率的な卵子回収方法の検討
・OPU施術前の薬剤投与などを検討し、1回の施術でより多くの卵子が回収できる方法を検討する。
(2)受胎性の高い体外受精卵生産の検討
・光干渉断層撮像法(OCT)を利用した3次元的画像解析による精度の高い受精卵選別方法の検討
・孵化補助技術(アシストハッチング)等を利用した受胎性向上の検討
2 体外受精卵を活用した育種改良技術の確立
・体外受精卵の段階でゲノム育種価算出を行うためのサンプリング、培養技術を確立させ、効率的な種雄牛造成に活用する。
体外受精卵を活用したこれまでの取り組み
○H20〜25年度:経膣採卵による一卵性多子生産技術の開発
・一卵性多子は得られなかったものの、経膣採卵技術を用いた体外受精卵生産の方向性を示した。
○H26〜30年度:鳥取和牛の効率的な増産と改良に向けた体外受精卵利用技術体系の構築
・体外受精培養液に添加する物質を選定し、胚発生率の向上および凍結保存における耐凍性の向上を示した。
・体外受精後に発生した胚を割球分離することにより、農家所得向上となる一卵性双子生産の可能性を示した。
・鳥取大学農学部獣医学科との共同研究により、OCT技術を用いて、ウシ体外受精卵の撮像に成功し、受精卵選別方法の可能性を示した。(第111回日本繁殖生物学会にて発表)
試験計画
○受胎性の高い体外受精卵の生産
・効率的なOPU方法の検討(H31〜32年)
・体外受精卵の3D画像解析(H31〜33年)
・孵化補助技術を活用した体外受精卵移植(H32〜34年)
・体外受精卵の受胎率調査(随時)
○体外受精卵を活用した育種改良技術の確立(H31〜34年)
○成果取りまとめ(H35年)
期待する効果
・体外受精卵の増産および受胎率向上で、県内の受精卵移植技術の現場段階での普及がさらに進み、和子牛増産と農家の所得向上、県内畜産業の活性化につながる。
・受精卵段階での能力判定等が可能となれば、より確実な種雄牛造成や和牛改良が進められ、それに要する時間短縮や候補牛の削減にも繋がる。
事業費
・標準事務費(医薬材料、試験用消耗品等)2,069千円
・役務費(登録関係手数料等)150千円
・委託費(鳥取大学共同研究費)1,000千円
・備品購入費(経膣採卵用超音波診断装置、CO2インキュベーター)8,295千円
これまでの取組と成果
これまでの取組状況
H26〜30年度試験「鳥取和牛の効率的な増産と改良に向けた体外受精卵利用技術体系の構築」において、体外受精卵の培養環境を検討することにより、胚盤胞発生率および凍結融解後の生存性を向上することができ、体外受精卵の2卵移植を含めた受胎例を得ることができた。
これまでの取組に対する評価
体外受精卵を活用する前段の基礎条件の検討ができた。現場での普及・利用促進を考えると、より効率的なOPU由来受精卵の生産と、高受胎率が望める体外受精卵培養体系の構築が不可欠である。他機関の報告による受胎率なども一様ではなく、鳥取県内における体外受精卵の安定供給には更なる検討が必要である。