1 事業の目的・概要
「全国和牛能力共進会(以下、全共) 肉牛の部」における優秀成績の獲得による鳥取和牛のブランド向上を目指すとともに、飼育期間の短縮により期待されるコスト低減での肥育経営の安定化のため、黒毛和種(以下、和牛)肥育牛の短期肥育技術を確立する。
2 主な事業内容
(1)黒毛和種肥育牛の短期肥育技術向上試験
・「脂肪の質」向上対策
第12回全共で、審査の重点度が高まる「脂肪の質」の向上を目指す。
・「小ザシ」向上対策
和牛肉の価値を高める新たな指標として注目されている「小ザシ」の向上を目指す。
・短期肥育マニュアルの改訂
上記の向上対策を加味した短期肥育マニュアルの改訂を行う。
・バイオマーカー解析技術を活用した肉用牛枝肉形質の生体評価手法の確立
本研究手法の確立を目指す。確率した際は、第12回全共における出品牛の選畜等にも活用する予定。
(2)超音波肉質診断における人工知能の活用
・全共出品牛等を生体時に選抜する技術に、超音波画像での肉質診断があるが、技術者の養成が難しい。そのため、人工知能を活用した選抜手法を検討する。
・本試験は、鳥取大学工学部と共同研究により実施する。
3 背景及び目的
(1)第11回全共・肉牛の部で、鳥取県は7区で1位を獲得した。その結果、全国から鳥取県産和牛に注目が集まり、和牛子牛価格が全国トップクラスになるなど、大きな効果がみられた。
(2)当然、次回の第12回全共でも優秀な成績を収めることは、本県の畜産振興を考えたうえで重要な要素となる。しかし、全国的にも肥育技術は向上しており、第11回全共を通じて培われた技術に加えて、新たな肥育技術の導入や、全共に出品する牛の選抜技術向上を行う必要がある。
(3)一方、肉牛の肥育においてコストの大半を占める飼料価格は、輸入穀物相場の高止まりにより経営を大きく圧迫している。さらに、素牛不足により子牛価格も高騰しており、肥育経営におけるコスト低減は緊喫の課題である。
(4)単純な肥育期間の短縮は、枝肉重量及び肉質の低下が懸念される。また、現状では月齢の若い肥育牛の枝肉は市場評価が極めて低いことから、農家自らが短期肥育に取り組むのはリスクが大きいため、試験場では各種技術を検証、組み合わせることで、市場評価を損なうことなく通常肥育と遜色ない枝肉の生産をめざし、その技術を確立する。
4 期待される効果
(1)短期肥育技術の確立により、全共での鳥取県出品候補牛の飼養管理に活用できるとともに、肥育牛の選抜技術の向上により、第12回全共での優秀な成績を収めることに貢献できる。
(2)短期肥育技術の確立、普及によって、肥育期間の短縮による飼料費をはじめとした生産コストの低減、肥育の回転率の向上によって県内肥育農家の経営向上が図られる。
5 試験期間
令和元年度〜令和5年度
試験内容 | R元 | R2 | R3 | R4 | R5 |
(1)黒毛和種肥育牛の短期肥育技術向上試験 | 「脂肪の質」
向上対策 | ● | ● | ● | ● | ● |
「小ザシ」
向上対策 | ● | ● | ● | ● | ● |
短期肥育
マニュアル
の改訂 | | | ●
(暫定版) | | ●
(完成版) |
(受託)
オレイン酸
含有率生前診断試験 | ● | ● | ● | | |
(2)超音波肉質診断における人工知能の活用 | 人工知能用
データ作成 | ● | ● | ● | ● | ● |
ソフト開発 | | ● | ● | ● | ● |
これまでの取組と成果
これまでの取組状況
・黒毛和種去勢肥育牛の短期肥育技術の確立
第11回全国和牛能力共進会で、出品に取り組んだ優秀な肥育技術を持つ肥育農家に対し、畜産試験場は出品牛の選畜や短期肥育マニュアル(暫定版)の提示、健康管理等の支援を行った。
・「鳥取和牛オレイン55」の増産に向けた飼料給与試験
脂肪の質を向上させる資材(膨潤発酵飼料米、ビオチン、モネンシン)の検討を行った。合わせて、近畿大学と連携してオレイン酸の生前診断技術開発を行った。
オレイン酸割合の向上については、検討資材では十分な成果の確認には至らなかったが、生前診断技術開発の中で、有用と思われる指標が発見されるとともに、その知見を用いた「脂肪の質」向上策の可能性が見出された。
これまでの取組に対する評価
短期肥育は、通常肥育とは異なる特別な技術が必要となるが、他県の短期肥育技術は飛躍的に向上している。これに対応するためには、試験場での試験結果に基づく短期肥育マニュアルの改訂が必要。