1 事業の目的・概要
県または国にとって歴史上または学術上の価値が高く、高度な調査が技術的に必要な重要遺跡等について積極的に調査研究を進めることで、県または国史跡指定などの価値付けに向けて取り組む。価値づけられた重要遺跡を保護しつつ、地域振興や観光振興を図る。
弥生時代を代表する青谷上寺地遺跡や妻木晩田遺跡に含まれない、それ以降の古墳、古代、中世の遺跡について、これまでの調査経緯や新たな知見を踏まえ、複数の課題を設定して実施するもので、『鳥取県文化財保存活用大綱』のストーリーにも該当する。
事前の踏査や文献等調査にもとづいて、その中から年2〜3テーマの発掘調査を行う。
2 主な事業内容
(単位:千円)
事業区分 | 事業内容 | 要求額 | 前年度予算額 | 前年度からの変更点 |
1古墳 | 山陰最古級の前方後円墳「本高14号墳」の築造に大きく関わる、隣接する「古海古墳群」の調査を実施する。
・詳細測量図作成(新鳥取県史レーザー測量データ利用)
・古海36号墳の発掘調査(トレンチ4箇所)
・周辺古墳の踏査
・現地説明会やホームページ等による情報発信 | 1,761 | 2,838 | ・古海36号墳発掘調査
・古海古墳群測量図作成 |
2 古代山陰道(青谷) | 青谷地域の古代山陰道の調査研究を継続・進化させ、国史跡指定により更なる価値づけを目指すとともに、周辺域における古代山陰道の様相を明らかにする。
・青谷、気高地域で新たに確認された切通しなどの道路痕跡 を発掘調査する
・調査成果を現地説明会、講演会により情報発信する | 1,311 | 3,146 | ・気高地域の発掘調査 |
3 中世城館 | 天正8、9年の毛利・織田戦争による城館、戦国時代の東伯耆、因幡に点在する国人衆の拠点となる城館(市場城跡)の調査、研究を行う。
・市場城跡の発掘調査を実施し、城館の存続年代や機能を解 明する。
・現地踏査について研究者の指導を受けながら行い、その成 果を現地説明会などにより情報発信する。
・東因幡の国人衆に縁のある山城の現地踏査。 | 6,357 | 2,054 | ・市場城跡の航空レーザ測量 |
共通 | ・標準事務費等 | 98 | 144 | |
合計 | 9,527 | 8,182 | |
3 事業の必要性
1 古墳の調査研究
県内には13,500基超の古墳が存在、前方後円墳も約250基存在し、その数は中国地方で最多である。これらは当時の王やリーダーが眠る墓として地域のシンボルとなる文化財であり、その存在は郷土愛醸成や地域振興等につながりうる。
新鳥取県史編さん事業(令和元年度まで)による大型前方後円墳の測量調査成果や、開発に伴う中小古墳の発掘調査成果を活用しながら、周辺の踏査や必要な発掘調査を行うことにより、大型古墳の規模・時期を確認し、その時期的変遷、地方とヤマト政権との関わり等を明らかにすることが可能になる。
2 古代山陰道の調査研究
青谷上寺地遺跡、青谷横木遺跡から古代山陰道の道路遺構を検出したことを更に発展させ、飛鳥から奈良時代に律令国家が整備した古代官道のうち、本県に残る古代山陰道跡を調査研究することにより、市街地での開発行為に基づく発掘調査では得難い情報等(街路樹、土木工法、線形など)や関連する遺構(条里地割など)の検出につながるとともに、古代山陰道の推定ルートが確定されることで地域社会や経済との関り(青谷上寺地遺跡、湖山池南岸との関係性など)を明らかにすることが可能となる。
3 中世城館の調査研究
鳥取県文化財保存活用大綱のストーリー、(7)戦乱の時代が残した因幡・伯耆のたからもの に基づき、天正8、9年の毛利・織田戦争による城館、戦国時代の東伯耆、因幡に点在する国人衆の拠点となる城館の調査、研究を行う。
戦国時代や城郭(山城)に対する関心が高く根強いことで観光振興につながることが期待でき、そこに暮らす人々の郷土愛醸成、地域振興につながることから、20年前に行われた中世城館調査の悉皆分布調査の結果を発展させる。更なる文献調査などを踏まえて山城(点)と山城(点)をつないだ広域的な歴史ストーリー・ネットワークを構築する。現地踏査を踏まえて縄張り構造を確認し、発掘調査を行うことによって、遺構・遺物・文献の総合調査から築城時期・主体、ひいては地域の戦国史を明らかにすることが可能となる。
これまでの取組と成果
これまでの取組状況
【事業目標】
・国県史跡指定の拡大
・調査研究を通しての遺跡の露出度の拡大
・地域の史跡、遺跡の活用気運の向上
これまでの取組状況
【古 墳】
令和3年度から当調査事業を開始、周辺の古墳の踏査やこれまでに行われた発掘調査情報の整理を実施。
本高14号墳については、一般対象のウオークを開催しているほか、古墳近くにある小学校で歴史授業の教材として活用している。
【古代山陰道】
令和1〜3年度に鳥取市青谷町内で実施した発掘調査で次のことが確認できた。
・東側丘陵の養郷新林遺跡や養郷狐谷遺跡において大規模な切通し(オープンカット)で造られた幅9mの古代山陰道を確認。
・東側丘陵の急斜面の養郷宮之脇遺跡において、全国初となる「つづら折り」の古代山陰道を確認。
・青谷西側丘陵において、青谷上寺地遺跡から続く古代山陰道を長さ500mにわたって確認。・東側丘陵頂部および東斜面の会下坂部分において切り通し(オープンカット)で造られた古代山陰道を確認
【中世城館】
令和元年度から群雄が割拠した16世紀後半の西因幡・東伯耆エリアで踏査、発掘調査を実施し、次のことが確認できた。
・旧気高郡エリアで遺構の残りが非常によい「狗尸那城」を確認し、礎石建物、石積みを用いた新しい時代の施設を伴う城館の可能性が高くなった。
・市場城(倉吉市)の発掘調査で大型の掘立柱建物跡が確認されたことから、東伯耆の有力国人、小鴨氏と関連する城館であることが確認された。
・その他東因幡の国人衆の城郭について踏査を実施し、詳細縄張図を作成。
また、市場城跡の調査成果を元に関連イベント(現地説明会)を実施した。
これまでの取組に対する評価
古代山陰道や市場城跡は現段階では史跡指定されていないが、すでに現地説明会やウォーキングイベント、講演会などには県内外からも参加者があり、地域振興にも寄与し、地元はもとより全国的にも認知度が高まりつつある。このように、調査研究を行い遺跡・文化財を価値付ける取組みは重要である。
【古 墳】
現状保存された本高14号墳について、文化庁も当県におけるその重要性を理解し、国史跡候補として認識している。ただし、そのためには本高14号墳と周辺の古墳や遺跡とのグループ関係、弥生時代の墳丘墓との比較等を確認し、本高14号墳の価値付けを行うことが必要と指摘されており、文化庁とも早急な調査の実施が必要であるとの認識を共有している。
【古代山陰道】
発掘調査結果等により次の評価を得ている。
・R2年度設置した「因幡国古代山陰道発掘調査委員会」において、発掘調査で確認された古代山陰道を正式に認定
・文化庁とも全国的にも非常に貴重な遺跡で、国史跡候補としての評価を共有している。
その上、関連イベントとして現地説明会、ウォーク等の実施に際しては一般、研究者を含め多くの参加者が集まる上、古代山陰道についての講演依頼も多く、大変好評を得ている。
・今後の西因幡エリアの地域振興を進める上で古代山陰道の調査研究は欠かせないものとなっている。
【中世城館】
市場城跡は発掘調査結果から13世紀以降に大規模な土地造成、その後、大型の掘立柱建物が設けられ、有力な在地領主(小鴨氏)による城館としての位置づけが可能となった。
・中世城館の現地踏査に基づいて実施するウォークイベントや発掘調査に伴う現地説明会では一般、研究者を含め多くの参加者が集まり、大変好評を得ている。
・調査研究による成果を地元自治体や観光関連団体に還元し意欲的に活用いただいている。