1 事業の目的・概要
内水面(湖沼・河川)における重要魚介種の資源回復、増殖を図る。
(1)湖山池漁場環境回復試験
・塩分導入が池内の魚介類へ与える影響を把握するとともに、ヤマトシジミの資源管理手法を提示する。
(2)東郷池ヤマトシジミ資源回復試験
・ヤマトシジミ資源が減少したことから、その回復策(池内の水質管理)を実践し、効果を検証する。
(3)アユ資源改善事業
・近年、不漁が続いていたアユ漁について、復活させるための手法を明らかにし関係者へ提示する。
2 主な事業内容
(単位:千円)
| 細事業名 | 内容 | 要求額 | 前年度予算額 | 前年度からの変更点 |
1 | 湖山池漁場環境回復試験 | ・塩分導入影響把握
・ヤマトシジミ増殖
・覆砂効果把握 | 2,229 | 2,229 | |
2 | 東郷池ヤマトシジミ資源回復試験 | ・ヤマトシジミ再生産時の好適条件把握
・ヤマトシジミ増殖策の修正、効果検証
・ヤマトシジミの最適漁獲量の提示 | 1,631 | 4,194 | ・東郷池内に2箇所に設置した水質測定システムの更新が完了した。 |
3 | アユ資源改善事業 | (1)天然資源の動向把握
・遡上調査(3河川)
・産卵場調査(3河川)
・流下仔魚調査(3河川)
・海域アユ仔稚魚調査
(2)(水産研究・教育機構委託研究事業)
・河川環境改善技術開発
・海域におけるアユ減耗原因調査
(3)河川内の不漁対策手法の開発・普及
・種苗放流手法の改善等
(4)漁協等が行う不漁対策の効果検証・改善提案 | 3,746 | 5,940 | ・天然資源量の回復を目指した親魚放流試験及び発眼卵放流試験を終了する。 |
合計 | 7,606 | 12,363 | |
3 背景
1 湖山池漁場環境回復試験
・塩分が導入されるH24年以前は、湖山池はアオコや異臭の発生、漁獲量の減少など種々の問題が発生し、地位住民などから対策が求められていた。
・県は「水質浄化」と「豊かな生態系回復」を目的に、H17年11月からH23年度までを試験期間として、「塩分導入実証試験」を実施。
・県と鳥取市は「湖山池将来ビジョン」をH24年1月に作成し、湖山池の塩分濃度を東郷池並とすることが決定された。
・これに基づき、H24年3月から塩分導入を開始。
・湖山池関係者から塩分導入が湖内の生態系へ与える影響の把握が求められている。
・塩分導入とヤマトシジミ増殖策によりシジミ資源が創出され、H26年6月からシジミ漁が開始された。
・ヤマトシジミ資源量は変動が激しいことから、安定して漁獲できる資源管理の提示が求められている。
2 東郷池ヤマトシジミ資源回復試験
・東郷湖漁協では、「シジミ増殖策(水門操作マニュアル)(H16提示)」に基づく水門操作を続けてきたが、近年、高潮位による操作不能や夏期にアオコが発生する等によりシジミの大量斃死が頻発、再び不漁に陥った。
・東郷池のヤマトシジミ資源の回復と安定生産のため、近年の気候変動に応じた「シジミ増殖策」の見直し等を行ったところ(H26〜H28年度)、H28年度の漁獲量は120トンまで回復した。この結果を受け、H29年度に貧酸素対策を盛り込んだ「シジミ増殖策」改訂版を提示した。
・しかし、H29年、H30年と貧酸素以外と推察される原因でヤマトシジミが斃死し、資源量が大きく減少し、R1年から漁獲規制が強化された。
・このため、早急なヤマトシジミの資源回復と増殖策の改良が求められている。
3 アユ資源改善事業
・H26年を境に、県内3河川(日野川、天神川、千代川)におけるアユ遡上量が激減。以降、R3年まで遡上量は低く推移し、河川漁協の経営が悪化している。R4年以降回復傾向に転じ、R5年(2023年)は大幅に遡上量が増加した。
・鳥取県における天然アユ遡上の良否は島根県や山口県(日本海側河川)と似た傾向を示していることから、海域生活期におけるアユ仔稚魚の生残率が年によって変動し、遡上量に影響しているものと考えられる。
・海域だけでなく、河川内でもアユの不漁原因(カワウ被害、生息環境の悪化、餌資源の減少、産卵場の環境悪化等)が多数存在している。河川内の不漁問題についてはR1年度に策定した「アユ不漁対策プラン」によって対策案を提示、漁協等が行うアユ不漁対策への指導、対策実施後の効果検証を行う。海域での減耗原因については国や関係県等と連携し、解明に向けた調査を行う。
4 前年度からの変更点
| 項目名 | 変更内容 |
2 | 東郷池ヤマトシジミ資源回復試験 | (減額)昨年度は東郷池水質観測システム(計測機器含む)を更新する必要があった。今年度は更新したシステムを用い水質観測を継続する。 |
3 | アユ資源改善事業 | (減額)アユ天然資源の増加が確認できたため、親魚放流試験、発眼卵放流試験を終了する。 |
これまでの取組と成果
これまでの取組状況
<事業目標>
(1)湖山池漁場環境回復試験
事業目標:・湖山池におけるヤマトシジミ資源の増大
・湖山池における漁場環境等の監視 8回
(2)東郷池ヤマトシジミ資源回復試験
事業目標:・東郷池におけるヤマトシジミ漁獲量の回復
・東郷池における漁場環境等の監視 8回
(3)アユ資源改善事業
事業目標:アユ不漁対策の実施と効果検証
<取組状況>
(1)湖山池漁場環境回復試験
・H17年11月から実施されている塩分導入実証試験に対応して、湖山池において、定置網等を用いて魚類相を把握。
・また、池内の塩分が高まったことからヤマトシジミ増殖試験を開始。
(2)東郷池ヤマトシジミ資源回復試験
・東郷池のヤマトシジミ資源が減少したことから、H26年度から資源増殖のための調査を再開した。
・R元年度から試行的に最大塩分濃度を6psuから7psuへ高めたシジミ増殖策を実施。
(3)アユ資源緊急回復試験
・R元年度に「鳥取県アユ不漁対策プラン」を策定し、漁協関係者等に対しアユ資源を持続的かつ有効に利用するための方策を示した。
<現時点での達成度>
(1)湖山池漁場環境回復試験
・ヤマトシジミ漁獲量(R3実績205t、長期目標300t )
・漁場環境等の監視(R3実績8回、基準値9回)
(2)東郷池ヤマトシジミ資源回復試験
・ヤマトシジミ漁獲量(R3実績78t、長期目標300t )
・漁場環境等の監視(R3実績8回、基準値8回)
(3)アユ資源緊急回復試験
・漁協関係者はR元年度に策定した「アユ不漁対策プラン」に基づいて不漁対策を実施しており、種苗放流やカワウ対策について一定の成果が得られた。
<改善点>
・R2年度まで、現状を把握する調査が主体であったが、R3年度からアユ天然資源を回復させるための親魚放流試験など行い、資源回復手法の開発に取り組んでいる。
・ドローンのアユ産卵場調査への導入など、先端技術の活用を試みている。
これまでの取組に対する評価
(1)湖山池漁場環境回復試験
・本試験により、塩分導入が湖内の魚介類へ与えた影響を検討することが可能となった。
・ヤマトシジミの増殖については、シジミ漁が開始されるなど成果があり、漁獲量も増加傾向にある。
・R5年現在のヤマトシジミ資源量豊度は高く、漁獲量を増加させても問題ない。販路を如何に拡大させるかが重要である。
(2)東郷池ヤマトシジミ資源回復試験
・平成28年に「シジミ増殖策」を修正し、シジミ資源がわずかに回復したが、H30年には大きく減少し、不足箇所が明らかとなった。
・試行的に修正したシジミ増殖策を行ったところ、稚貝が発生した。稚貝の生残率を向上させるには餌となるプランクトンが重要であり、そのためにも適切な水質管理が今後とも必要となる。
(3)アユ資源緊急回復試験
・天然資源の減少について、海域における餌料環境が大きな影響を与えている可能性が示唆された。このような調査結果について(国研)水産研究・教育機構や各県と情報共有するとともに、原因解明に向けた調査手法の検討を行い、広域連携体制の構築や研究手法の進展に努めた。また、R3年度から(国研)水産研究・教育機構との共同研究を開始した。
・本事業で得られた調査結果を基に、漁協に対し河川における種苗放流手法の改善案を提示。その結果、友釣りによる好漁場を形成することができた。
・天然アユ資源減耗原因については、仔魚の孵化時期や仔魚量、海域の水温、餌料生物量等が影響していることが示唆されることから、今後もこれらについてモニタリングを続ける必要がある。
・現行の不漁対策手法について実施後の検証を行い、改善策を示す必要がある。